エデンの彼方でいつかまた

白羽 瑞希(しらわ みずき）は大手広告代理店で仕事をしていたが、職場いじめを受けていた。

物が失くなることは日常茶飯事。
当たり前のように暴言、嘲笑……。

年齢は三十才。
染めていない黒い髪に眼鏡。
化粧も基礎化粧をする程度でメイク自体も控えめで、口数の少ない控えめな性格だった。

だが仕事の評価は高く上司から期待されていたことも、同僚の気に障っていたのだろう。

性格から反論もできない雪はストレス発散のサンドバッグとして、うってつけだったのだ。

しかしある日、耐えられなくなって仕事を辞めた。

自分が壊れてしまう。
もう限界だった。

「そんなことで辞めるの？ 家族にバカにされてるんじゃない？ まあ、私も結婚が決まったから、辞めるけれど」

いじめの主犯であった女は、日本を代表する大企業幹部の娘だった。

名前は天明 留乃(てんめい るの)。
女性らしいふわりとした茶色のロングヘアー。
パステルカラーのオフィスカジュアルに身を包み、それが彼女の魅力を更に引き出している。

面長の顔立ちの美しい女性であった。

同じく企業内の幹部息子との結婚が決まり、家の繁栄に結束を固めるのだろう。

「社長とケイシンも招待するのよ。いいご縁になりそう」

「え! ケイシンって……あの、謎の世界的デザイナー!?」

「そうよ」

「確かうちの会社、ケイシンが所存する企業と提携予定なんですよね……すごいです、私たちとは世界が違いますね」

同僚の羨望の眼差しを受ける留乃は、瑞希には目もくれない。

最後まで嘲笑され続けた瑞希を唯一、心配してくれたのはシニア枠で働いていた老女だった。

夫も亡くなり清掃の仕事を始め、時間が瑞希の勤務時間とよく重なっていたので仲良くなった。

「瑞希ちゃん、負けないで。ずっと味方よ」

老女に感謝しつつ、失業保険を貰いながら傷も癒えてきたある日。
その老女の紹介で臨時で清掃のアルバイトをすることになった。

家の用で行けないので、代わりに入って欲しいという。

ずっと家に閉じ籠ることも良くないことはわかっていたし、彼女の話は素直に嬉しかった。

頼まれた場所は会員以外の人間は入れない場所だということが、老女は信頼があるのであっさりと雇い側も了承してくれた。