エデンの彼方でいつかまた

賄賂

「そんな……」
「これはおれが預かっても、いいか? 考えがある」

敬信は答えると、心配そうな瑞希の髪を撫でた。
この時、部屋にふんわりと食欲をそそる肉の焼ける匂いが漂ってきた。

瑞希の腹が音をたてて顔を真っ赤にし、敬信は愉快そうに笑い立ち上がる。

「なにか食べようぜ。もうできる頃だ」
「わ、わたしも手伝います!」

瑞希も一緒に立ち上がると、敬信と共にキッチンへ向かった。
敬信は料理も普通にこなし、魚も自分で捌き調理してしまう。

パンやサラダ用だと云う生ハムの原木を眺めつつ、敬信の慣れた包丁捌きに惚れ惚れしていると、それに気づいた敬信が苦笑した。

「デザイナーとして売れるまで、時間がかかったからな。安い食材で自炊は当然だった」

あの繊細なアクセサリーをデザインして作っていたのだから、手先が器用なのだと再確認してしまう。

オーブンのタイマー音が鳴った。
丁度、焼き上がったようだ。

「瑞希のためにローストビーフを作っておいた。あと玉ねぎのスープとサラダと、パンと……ライスもあるからな」

リビングテーブルに、あっという間に料理が並んだ。
料理の盛り付け、皿、小物類に至るまで美しいセッティングがしてある。

「すごい、ごちそうですね……!」
「いつもはこんなに作らないさ。瑞希のためだよ」

敬信は笑いテーブルに向かい合う。

「わたしは家庭料理の範囲内のものしか作れないですが……今度、良かったら食べてください」
「楽しみだ。忙しくないときに、やれる範囲で作ってくれ」

敬信は優しい。
あの店での荒々しさが嘘のようである。
というより、瑞希には極端に弱い。

食事を終え食器を片付けると、ソファに二人並んで座る。

しばし沈黙が流れ、瑞希は気になっていたことを切り出した。
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