エデンの彼方でいつかまた
「敬信さん、天明さんたちの婚約の立ち会いに来ていたんですよね、めちゃくちゃになってしまって」
「気にするな、おれは婚約のために来ていたんじゃない。銀珠の広告代理店との契約。それと用あって身内と会う約束をしていたのさ。だが結局、すっぽかされた。改めて会いに行く予定ではいるんだが……掴みどころのない人間でなあ」
敬信でさえまいてしまう人物とは、一体どんな人間なのだろう。
「そうだったんですね」
「君も行くんだぞ」
瑞希は目を丸くした。
「え、わたしも?」
「婚約者として紹介する。結婚は何度か薦められていたから、これで安心するだろうさ」
一気に緊張が瑞希を襲う。
なんの資産も財産もない、一般人である。
そんな自分が認められるのだろうか。
そもそも本当の結婚ではない。
「なにも心配はいらない」
瑞希の心配をわかっていたかのように、敬信は肩を抱き引き寄せる。
「瑞希を気に入るさ。こんな可愛い女性を拒否するはずがないからな、ハニー。おれは偽装なんてつもりはないんだ」
頬に軽くキスをすると瑞希は顔を赤くさせ、敬信は微笑し表情を改めた。
「瑞希は、なぜあの女に目をつけられるようになった?」
「え! えっと……」
突然の質問に驚きなからも、瑞希は話しだした。
「……それは……」
留乃は中途採用のパートだったのだが、それまで平穏に過ごしていた職場にマイルールを課した。
禁止されていることは無意味だからと皆に無視するよう強要したり、デスクには一礼してから着席するようになど。
「なんだそれは」
敬信が呆れた声を出した。
「わたしもそう思って……注意したんです。会社のルールは守りましょう、無意味な押し付けはよくないです、って……そうしたら」
「逆ギレしたわけか」
瑞希は頷く。
その後、正式に留乃は正社員登用になり、職場の人数が過剰になっていると通達があり、嫌がらせが始まった。
「なるほどな」
敬信は顎を撫でる。