エデンの彼方でいつかまた
会社としては瑞希のクビは切りたくないが、コネが働いている留乃を、ないがしろにするわけにもいかない。

その状態が見てみぬフリの状態を作ってしまった。

「だからわたしは、不幸なんかじゃない。幸せだって、見せつけたかったのかもしれません」

瑞希はブレスレットを無意識になぞる。
誰もが羨む結婚。
それを利用していると自覚はある。

「わたし、実はお兄さんとの公園のあとで、すごく叱られて。それから両親が無理をして、塾代を支払っていることを知ったんです」

その後も借金は膨らみ続け、実家の部品工場は倒産した。

「わたしもがんばって借金を返していたんですけれど、なぜかそのことを天明さんに知られて……あの会社には相応しくない、と云われました」

留乃には借金を重ねるような、そんなだらしない人間は必要ないと感じていたらしい。
そして自分と同じ職場にいることが赦せなかったようだ。

そんな彼女に一泡吹かせたい。
そんな気持ちもあった。

「ごめんなさい、こんな邪な考え……お兄さんの思うような素敵な女性じゃないですよね」
「人間なんて、そんなものさ」

敬信は云ったが、どこか歯切れの悪いことに瑞希は気づかなかった。
知らずに続ける。

「人生やり直したいです」

敬信の瞳が瑞希を映している。

「まだ始まってもいないだろ、人生。一緒に始めようぜ。おれと一緒に」

瑞希は笑顔を見せた。
素直に嬉しい。

「はい。敬信さん」

まぶしく優しい、春の日射しのような笑顔だった。
敬信は腕を伸ばし瑞希の細い体を抱き寄せる。

「再会できて良かった。これからも一緒にいてくれ」

嬉しい敬信の言葉。
瑞希も顔を赤らめながら、おずおずと大きな背中に腕をまわす。

少しずつ近づく、二人の距離。
同時に雨雲が近づいていることを、この時はまだ知らない。
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