エデンの彼方でいつかまた
株式会社。
瑞希が勤務していた職場だ。
高層ビルの上階にある社長室に、瑞希は赴いていた。

先日の瑞希宛に送られた荷物の中身を、銀珠たちと確認するように敬信に頼まれたからだ。
敬信は仕事で留守にしている。

(働いているときには、社長室なんて行く用もなかったのに……変な感じだなあ)

敬信は瑞希に送られてきた贈答品を後日、すべて山吹銀珠に渡した。
社長室には秘書と弁護士もいる。

「賄賂の証拠というわけね」

銀珠立ち会いのもと贈答品を開封すると、菓子箱に巧妙に仕組んだ金品を確認する。

今まで天明留乃に付いていた人間が掌を返し、瑞希に気にいられようと必死なのだ。

「嘆かわしいわね。こんなものを送れば身の安全を計れる。そんな状態が、日常化している」

銀珠はため息をつくと、賄賂の証拠を保管しておくように秘書に指示し弁護士も一礼をすると退室した。

瑞希と銀珠、二人だけが残される。

「驚きました。こんなことになるなんて」
「敬信がそんな男だと思ったら、大間違いよ。あんな感じだけど、中身はストレートだから」

友達、というよりは更に深い仲。
そんな感じに思えた。
呼吸を整えると、瑞希は決心し訊ねる。

「あの、銀珠さんは、敬信さんのこと」
「今の婚約者に云うことじゃないわ。昔のことよ。今はただの友達」

それは銀珠が、敬信と恋仲であったことを示していた。
瑞希は偽装結婚だが、銀珠とは正真正銘の恋人。
お互いをよくわかっているようだ。
わかってはいても、ズキリと胸が痛む。

「私を気分よく思わないでしょう。でもね、私は敬信のマンションに行ったことはないの。いつもはぐらかされていたわ」

そんな瑞希の心がわかったかのように、銀珠は答える。

自分がマンションに行けなかった理由。
その理由をいま、彼女は理解した。

照れ隠しだったのだ。

瑞希が大切にしている敬信が作ったブレスレット。
それ関係を保管してあることを知られることを、避けていたのだ。

その時まで誰にも話さずひっそりと、しかし硬い決意。

銀珠の瞳がフッと緩む。

そしてその言葉は音声にすることはなかった。
彼女のささやかな抵抗なのかもしれない。

「敬信によろしくね。私も全力で会社の汚れを取り除くから」
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