エデンの彼方でいつかまた

秘密

社長室を退室した瑞希がエレベーターをおり、向かうのは正面玄関ではなく、人との接触を避けるため裏玄関から出て行こうとした時だった。

「白羽さん。お久しぶりね。婚約おめでとう」

それをわかっていたかのような、またしても、あの声。
天明留乃である。

「……!」

無視して通りすぎようとした後ろ姿に、留乃は続ける。

「ねえ。春友敬信とあなたの両親との関係、知りたくない?」

瑞希の歩みが止まった。
耳を傾けてはいけない。
それなのに、脚が動かなくなるのだ。

そんな瑞希に留乃は言葉を続ける。

「あなたのご両親の借金。強引な取り立て
にあっていたそうね」
「……だから、なんですか?」

瑞希は平静を装う。

「その取り立て。春友敬信が行っていたそうよ」

幼い頃、ヤクザまがいの取り立て屋が家にきて玄関に貼り紙をしたり、待ち伏せされ見張られたことがある。

その度に瑞希は家のなかで息を潜め、取り立て屋が去るまで震えていたものだった。

それが若き日の敬信だったというのか。


「あなたに負い目を感じているから、婚約したんでしょうねぇ。キャリアに傷がつくことを恐れた証拠隠しかしら」

結局、借金は返せずに両親は破産し、現在は工場跡地から引っ越した田舎で暮らしている。

しかし借金が消えることはなく、瑞希がそれを肩代わりしていたわけなのだが……。

「どうしてそんなことを? わたしが信じるとでも?」
「あなたのために教えてあげたの、親切に感謝してもらいたいわ。だってあの春友敬信が、あなたなんて相手にするはずがないんだから」

留乃の言葉に耳を傾けてはいけない。
わかっているのに会話を終えた瑞希は走っていた。
敬信に会って、事実か確かめたかった。


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