エデンの彼方でいつかまた
想い出
二十一年前の初夏。
日曜日のある朝のことだった。
当時九才だった瑞希はその日、学習塾へ行く予定だったのだがそこへは向かわず、公園のジャングルジムのてっぺんに登り、そこから風景を見渡していた。
サボりである。
勉強道具の入ったバッグは、ジャングルジムの足元に無造作に地面に置いたままだ。
「……」
楽しくなかった。
家族と唯一過ごすことのできる日曜日なのに、一日が勉強で終わってしまうことを疑問に思っていた。
友人は家族と買い物に行った、レジャーに出かけたと嬉しそうに報告をするのに、自分は毎回、塾と家だけ。
そもそも、なぜそんなに勉強しなくてはならないのかも、わからなかった。
そして今日は、ふと思ったのだ。
塾へ行かなければいい。
どうせ気づかれやしない……。
ぼんやりと遠くを眺めていると、ひとりの若者が公園に現れた。
背が高く筋肉質で細身の体格。
少しクセのある黒い髪、鋭角的な特徴が印象的な整った顔立ちの青年だった。
二十代前半だろうか。
簡易テーブルを脇に抱え、バッグやら手荷物をいくつか持っている。
それらを手際よく広げると、シルバーや皮のアクセサリーを並べた。
どうやら商売をする気のようだ。
だが客は一向につく気配がない。
「男ひとりじゃ、怪しまれるか」
呟き頭をかき回して周囲に目を向け、ジャングルジムの瑞希と目が合った。
「おまえ、暇そうだな。手伝え」
男は手招きをする。
戸惑いながらも瑞希はジャングルジムから降り、青年に近づいた。
「おまえはひたすら、声がけをしてくれ。客がきたらおれが対応するから」
商売の手伝いをしろということらしい。
瑞希にはもちろん、初めての経験である。
暇だったし時間潰しになればと、男に付き合うことにした。
「いらっしゃいませ……」
いざ声を出してみるものの少女の声は小さく、誰にも届いていない。
恥ずかしさもあるのだろう。
青年は再び黒い髪を掻き回した。
「……おまえ、ずっとあそこにいたよな」
地面に置きっぱなしの勉強道具の入ったバッグをみて、男は事情を察する。
「サボりか」
ヒロインはギクリ、と身をすくませる。
このまま塾や両親に通報されてしまうのだろうか。
日曜日のある朝のことだった。
当時九才だった瑞希はその日、学習塾へ行く予定だったのだがそこへは向かわず、公園のジャングルジムのてっぺんに登り、そこから風景を見渡していた。
サボりである。
勉強道具の入ったバッグは、ジャングルジムの足元に無造作に地面に置いたままだ。
「……」
楽しくなかった。
家族と唯一過ごすことのできる日曜日なのに、一日が勉強で終わってしまうことを疑問に思っていた。
友人は家族と買い物に行った、レジャーに出かけたと嬉しそうに報告をするのに、自分は毎回、塾と家だけ。
そもそも、なぜそんなに勉強しなくてはならないのかも、わからなかった。
そして今日は、ふと思ったのだ。
塾へ行かなければいい。
どうせ気づかれやしない……。
ぼんやりと遠くを眺めていると、ひとりの若者が公園に現れた。
背が高く筋肉質で細身の体格。
少しクセのある黒い髪、鋭角的な特徴が印象的な整った顔立ちの青年だった。
二十代前半だろうか。
簡易テーブルを脇に抱え、バッグやら手荷物をいくつか持っている。
それらを手際よく広げると、シルバーや皮のアクセサリーを並べた。
どうやら商売をする気のようだ。
だが客は一向につく気配がない。
「男ひとりじゃ、怪しまれるか」
呟き頭をかき回して周囲に目を向け、ジャングルジムの瑞希と目が合った。
「おまえ、暇そうだな。手伝え」
男は手招きをする。
戸惑いながらも瑞希はジャングルジムから降り、青年に近づいた。
「おまえはひたすら、声がけをしてくれ。客がきたらおれが対応するから」
商売の手伝いをしろということらしい。
瑞希にはもちろん、初めての経験である。
暇だったし時間潰しになればと、男に付き合うことにした。
「いらっしゃいませ……」
いざ声を出してみるものの少女の声は小さく、誰にも届いていない。
恥ずかしさもあるのだろう。
青年は再び黒い髪を掻き回した。
「……おまえ、ずっとあそこにいたよな」
地面に置きっぱなしの勉強道具の入ったバッグをみて、男は事情を察する。
「サボりか」
ヒロインはギクリ、と身をすくませる。
このまま塾や両親に通報されてしまうのだろうか。