エデンの彼方でいつかまた
「おまえのおかげだよ。助かった、ありがとうな」
誰もいなくなった夕方の公園で、青年は自分のブレスレットを外すと、瑞希に差し出した。
「こんな物でしか礼ができなくて悪いな、これもおれが作ったものだ」
皮と銀を組み合わせたブレスレットだった。
受け取って腕に付けてみたがブカブカだ。
男の腕と子供の手首の違いなのだから、仕方がない。
「ガキのおまえには、つまんねぇものだろうが、おれには大事な物なんだぜ。でもおまえにやる。感謝してるからな」
「ありがとう……」
瑞希が恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑顔をみせると、青年は軽く咳払いをした。
「じゃあな」
姿が見えなくなるまで、瑞希は手を振っていた。
別れたあと自宅へ戻った瑞希は、塾からのこないとの連絡でサボりがバレて、大目玉をくらったが心はスッキリと、晴れ渡っていた。
(イラッシャイマセ……)
心のなかで何度も呟く。
それから何度も公園に行ったり周辺を探したが、あの男と二度と会うことはなかった。
だがそれが瑞希の初恋であり、この出来事とブレスレットがその後の人生に勇気を与え、忘れることはなく、職場での嫌がらせがある度に青年を思い出し励ました。
お互いに名前も知らない。
彼女にとって、あの頃は楽園だった。
あの楽園のすみっこの果てに、もう一度、戻ることができたなら……。
ブレスレットをそっと撫でる。
「うんこのお兄さん。会いたいな……」
やがて、その場所にたどり着いた。