悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。




 それを見かけた店主が快く試食用に小さく切って渡して来てくれたのを、ファウラは子供のようにはしゃいで受け取る。
 
 口の中に入れた途端に弾けるような甘酸っぱさと、舌触りの良い触感に思わず頬を押さえた。おまけに瑞々しく、喉まで潤いどこまでも満足させてくる果実に釘づけだ。



「うちの特産品の一つの果実だ。シェーラと言ってこの時期が一番熟れて美味しい」


「こんな美味しい果実初めて食べたわ!」



 飲み込んだ後も口の中に残る、忘れもしない甘酸っぱさに顔を綻ばせる。それを見た店主が嬉しそうに何度も頷いては、もう一切れファウラに手渡す。



「本当にこの国を代表する果実が失われなくて良かったもんだ」


「そんなに育てるの大変なんですか?」



 店主から受け取りながら貴重な果実なのではないかと食べるのを迷う。ただ、店主は首を横に振って小さく微笑む。



「この国の国王、ルイゼルト王が戦争で打ち勝ったお陰さ。このシェーラの美味さに隣国の根が腐ったお貴族様が目を着けて来てよ。畑も何もかも奪おうと企んでたのを、国王様が一網打尽にしたってわけ。俺たちの特産品を国王様が守ってくれて、今もこうして美味いシェーラをお嬢ちゃんみたいな喜んで食べてくれる人に届けられてるんだ。国王様には本当に感謝してもしきれねえなあ」


 しっかりと味わいなさいと、強く頷かれては食べるしかないと、大きな口でシェーラに噛り付く。

 あの感動が口いっぱいに広がるのと同時に、嬉しさも広がっていく。



(この国にもルイの事を想ってくれる人がいる。悪魔王と呼ばれていたとしても、ルイは心優しい王様だもの)



 お腹も心も満たされながら隣の店で少し難しそうな表情で、売り上げなどの話を店主としているルイゼルトを見つめる。悪魔王と呼ばれる彼を前にする店主だが、恐怖に怯えた様子はない。







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