悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。





 お忍び慣れしたルイゼルトに対して、国の経済に熱心な若者が来たとでも思っているのだろう。

 それでも一人でもこうしてルイゼルトと接して、彼の本当の姿を知って欲しいとファウラは秘かに願った。

 悪魔王と呼ばれる自分が、皆から嫌われていると勝手に勘違いしているのをどうにかしてあげたい気持ちに、ファウラはシェーラをくれた店主にごちそうさまとお礼を言って、眉間にしわがより始めたルイゼルトの手を取った。



「ルイ!私にもっとこの国の良さを教えて!」



 話を遮るように声を掛ければ、ルイゼルトに掴まっていた店主が豪快に笑う。



「新婚旅行中だろう?こんな露店ばかりに居座ってたら時間が勿体ねえ!さあ行った行った!」


「しんっ……!?」



 店主の言葉に言葉が喉に突っかかる。新婚旅行という言葉に、周りを行き交う人々も振り向いては、お幸せに~と優しく黄色い声を投げかけてくる。

 聞き慣れない気恥ずかしい言葉に、ファウラは思わずぎゅうっとルイゼルトのシャツを握り締め彼の背中に隠れるように小さくなった。無意識に彼に自分から密着しに行っているなどと考える余裕もないファウラに、ますます周りの反応も大きくなる。



「そ、その!わ、私達実はまだ――」



 ちゃんと訂正しなければと慌てふためいていると、ファウラの言葉を封じるように彼女の唇を指で押さえて彼は正々堂々と言った。



「茶化すのは止してくれ。これ以上可愛らしい妻の可愛らしい反応を見せられたら、旅行の事を放っておいて寝室に連れて行きたくなる」


 意味ありげに歪められたルイゼルトの唇と、熱のこもった眼差しに全身が震えた。いつぞやの寝台での彼の唇の感触に、首筋にぞくぞくと何かが這い上がってくる。









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