悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
ファウラの唇を押さえていた指をそっと自分の口元に運ぶその姿は、くらくらしてしまう程に色っぽい。そう思うのは彼女だけでなく、周りに居た女性達の心も鷲掴みしてしまい、妙に取り囲まれていく。
そんなことも知らず、ただ見つめられているだけだと言うのに、逸らせない視線に蕩ける寸前でルイゼルトから視線を逸らした。
「祝福感謝する。暫しこの街と妻を堪能させてもらう。これ以上邪魔するなよ」
「いやあ~熱いねえ~」
「道中気を付けるんだよ!」
「良き旅路を」
見送る周囲の人達に温かい言葉をかけられながら、ファウラはルイゼルトにエスコートされて歩く。
今にも倒れそうになりそうなファウラの足取りをしっかりと支えながら歩くルイゼルトは、くつくつと喉で笑い始める。見上げるように彼の顔を見れば、嬉しそうな瞳が眩しく光る。
(一体いくつ心臓があれば足りるのよ……)
どきどきとうるさい心臓を抑えるように胸元を握り締め、乱れた呼吸を整えるとルイゼルトしか入らなくなっていた視界が広がっていく。ようやく落ち着いた頃、ファウラはこの街で生活する人々の様子を眺めた。