悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
(違う。変わったのは私自身よ)
いつも姿を見ていたい、陽だまりのような温もりに触れていたい、輝く紅い瞳に溺れていたい。
そう強く願ってしまうようになったのは、紛れもなくルイゼルトを強く想うファウラの気持ちが大きくなっているからだった。
想えば、想う程に淋しさで涙が零れそうになる自分が、愚かに思えてしまう。幼い頃に過酷な道を歩んでいた時でさえ、涙を流す事は無かったというのに。こんなにも弱くなってしまっては、ルイゼルトの隣を歩く事は許される訳がない。
自然とふらりとしながら歩いているのに気付かず、躓きかけたところを誰かが支えた。
「良かった、今度は直ぐにお助けが出来ました。浮かない顔してどうされました?ファウラ様」
聞き覚えのある声に顔を上げれば、心配そうな表情で見つめてくるエルディンがいた。
「エルディン様……!」
「お久しぶりです。セーナ嬢の一件は、大変申し訳ございませんでした。あの後、陛下からのお叱りを受け、また改めてファウラ様にお詫びをさせて頂きたく思っておりまして」
「いえ……!あの件については、解決したことになってますので、どうか気を遣わないでください。それで、一体こんなところに?」
「陛下に提出する書類があったものでして、たまたま城の窓から乗馬されているファウラ様をお見かけしたので、お声掛けをと思って参りました」
爽やかな笑みを浮かべたエルディンはファウラの手からさり気なく手綱を取り、彼女をエスコートしながら馬小屋へと足を動かした。