悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
見送りにも来ない父、国王の代わりにここまで見守ってきてくれたエドガーに手を引かれて屋敷を出た。
外でファウラの花嫁姿を今か今かと待ち望む皆の元へと向かい、見えたその姿に彼らはたちまち涙を浮かべる。
「ああ……ファウラ……」
「なんて綺麗なの……」
まるで我が子を愛おしむ街の皆に一人ずつ抱き締めてお礼を言いたい気持ちを堪えて、そっと微笑んで見せた。
クラネリシアの使者と目的地の国境で落ち合う予定を狂わせてしまったら、ルイゼルト王の怒りを買ってしまうかもしれないのだ。名残惜しさに、長いことここに留まっていてはいけない。
そう思っていたが、エドガーが馬車を目の前にして足を止めた。
「ファウラ」
穏やかな春の日差しのような優しいその声に振り返ると、皆の手を借りて歩く大好きな人が笑顔を浮かべていた。
「母様……!!」
フラフラと覚束ない足取りでも、一歩ずつ確実にファウラに近づいていく。例え今命が尽きたとしても、最愛の娘を祝福するために。
目の前にやってきた母親に、そっと頬を撫でられると目頭が熱くなった。
「私の愛し子が、更にこんなに可愛くなるなんて。あなたの旦那さんになる人は幸せ者ね」
「母様……体は……」
「先生に無理も承知で、今日に間に合うように少し強めのお薬をお願いして、内緒で頑張っちゃった。良いでしょ?今日くらい。娘におめでとうを伝えないで、いつ伝えるっていうのよ」
震える身体に気付きながらも、ファウラは母親からの愛情を受け取らずにはいられなかった。