悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
思い返せば、城に来てから今まで生きてきた時間の中でこんなにも頻繁に悪しき穢れの力を見ることは無かった。
「殿下は悪魔に身を染めた存在。人とは異なる力を持ち、悪を従える……そんな脅威を私が神に代わって見過ごすわけにはいきません」
押し付けられていた体が解放され、距離を取ったハヒェルに鋭く睨みつけられるが、そこに抵抗する気持ちは無かった。ファウラは睨み付けられたまま、小さく俯いた。
「神の力を脅かす者よ。そなたのような存在はこの国を破滅へと導く。神の慈悲によって、この国では裁かぬ。即刻国へ帰られよ」
踵を返して去っていくハヒェルは、回廊の奥へと姿を消した。
いつの間にかあれだけ晴れていた空には厚い雲がかかり、小降りの雨が静かに地面を濡らし始めていた。
ふと庭園を見れば、雨から逃れようと走るルイゼルトの姿があった。
(ルイ……私、貴方を……傷つけたくない)
床に落ちたクッキーの入った包みは庭園の方へといつの間にか転げ落ち、雨に打たれて濡れていた。こうして想いを伝えることすらも、ルイゼルトに危険が迫るというのなら、取る行動はたった一つ。
ぐっしょりと濡れた包みを拾い上げ、ルイゼルトに会わないようにしながら自室へと戻る。