悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
気づかぬうちに隠し通路の前には人の気配が集まっていた。聞き覚えのある鎖の音がわざとらしく響いた。
「よくぞ参られた、我が神よ!!我らを理想郷へと導きください!!」
悪魔はハヒェル達を前に力を発動させようとするが、にたりと笑うハヒェルの鎖が悪魔を封じた。
「ここで力を使うのは何かと面倒です、我が神よ。まだ使い慣れていない体、私がお預かり致しましょう」
『お前、何をっ……!!』
「鎖で捕えた以上、もう私に従うしかないのですよ。さあ、参りましょう」
動き出すハヒェルに大人しく着き従う悪魔は隠し通路から遠ざかっていく。
「ルイ!」
「まったく。貴方という人を早く始末しておけば良かったですね。この国に来る前に始末出来なかったのはこちらの落ち度です。盗賊など端から信用していませんでしたし。ここできっちりと始末して下さい」
「御意」
「……!」
武器を構えた兵士達がどこからともなく現れたかと思えば、悪魔の力に弾き飛ばされ倒れるファウラに剣を向けた。
この国にやって来た時から、神官達から命を狙われていた事実に驚いている暇はない。
(こんな所でやられるわけにはいかない……)
修羅場を乗り越えてきた底力を見せてやると構えようと体を動かすが、自分の力とは異なる力によって体がひょいと持ち上がる。小さなつむじ風が見えたと同時に、顔のすぐ上から声が聞こえてきた。
――見上げればそこには、眉間に深いしわを作ったユトが居た。
「陛下の守りたいと願う人に指一本触れさせませんよ」
怒りを含めた言葉を放つユトは仕事に追われて苛立つ彼とはどこか少し雰囲気が違う。
じっと見入るファウラに、少し口角を上げたユトは聞き取れない何かを唱えた。
「しっかりと僕に抱きかかえられててよ、お姫様」
状況が分からないまま、ファウラは声にならない悲鳴を上げ――その場から消えた。