悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
禍々しい光の中に、濁りの無い紅いあの瞳の輝きを見逃すはずが無かった。
「ユト!神殿の窓ガラスに向かって飛び込んで!あそこにルイが居る!」
「無茶言わないで!僕は平気でも、ファウラ様が怪我を負う危険性が――」
「どうするか迷っている暇はないのよ。私を信じて!」
真っ直ぐな瞳に見つめられたユトは一瞬躊躇したが、ファウラの言うとおり時間がないと直ぐに行動に移った。
翼を大きく羽ばたかせ、一度体勢を整えてから出来上がっていく結界の僅かな隙間目がけて急降下してすり抜ける。それを阻止しようと動いた怪しげな光が、ユトの翼に向かって槍のような鋭い光を投げつける。
「くっ……!」
衝撃を受けたユトの腕からファウラは零れ落ちるものの、傷ついたユトの手を取ってそのまま大きな神殿の窓ガラスに向かって落ちた。
ガシャーンッと派手にガラスが割れた音と共に、転がりながら全身に痛みが走るが蹲っている時間などないと、その場から立ち上がる。
「ユト……!」
ガラスの破片と共にファウラよりも少し遠くに投げ出されたユトは、翼に深い傷を負っていた。駆け寄ろうとしたファウラに、すごい剣幕で見つめるユトはただ短く叫んだ。
「行け!!!!」
「っ……!」
下唇を噛みしめて、ファウラは禍々しい大きな気配のする方へと走る。
後ろは振り返ることはしなかった。ユトが自分の言葉を信じて飛び込んでくれたように、彼を信じて走った。紅い瞳の輝きをまだ失ってはいない、ルイゼルトの元へ。
見張り役であろう兵士の甲冑の音が後ろから聞こえてきて、全力を振り絞ってファウラは先を急いだ。