悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。




 その衝撃で前に進むことを許さなかった見えない壁が崩壊し、吹き上げる白煙に咳き込みながらもルイゼルトの元へと向かった。

 崩れ落ちた天井の隙間から差し込む月明かりが、道標となるようにファウラの行く先を照らす。

 

「ルイ……」




 進む度に、感じてきた優しいルイゼルトの香りが漂ってくる。例え今目の前にいるのが悪魔に飲み込まれてしまった彼だとしても、まだ微かに感じてくる彼の想いは例えか細くとも消えはしない。

 強く想う気持ちは必ず通ずると信じているから。

 白煙が風に揺れて流れて行き、ようやく見えたルイゼルトの変わり果てた姿にファウラはそっと微笑んだ。

 鎖に繋がれたままのルイゼルトはファウラの気配に反応すらしない。



「一緒に城へ帰ろう、ルイ。貴方にはやらなきゃいけないことがあるでしょう?」



 ルイゼルトを包み込もうとする闇に近づくだけで心臓を押し潰されそうな痛みが襲う。それでも痛みに耐えて、手を伸ばした。

 初めて会った時に自分を盗賊から守ってくれたように。

 今度は自分が守りたいと強く想いながら、ファウラの体諸共飲み込もうとする闇にその身を預けた。

 猛烈な痛みに顔を歪めながらようやく届いた、ルイゼルトに優しく触れた。



『……さりを――……て』



 脳内に直接響いた声に目を見開けば、そこは神殿ではなかった。




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