悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
逃れられない、そう覚悟したがファウラはハヒェルから目を逸らさなかった。
今のファウラには、強く信じるという力があるのだから。
一閃。
月明かりに照らされた剣身が眩しい光を反射させた。
「かけがえのない大切なものを俺から奪えると思うなよ」
弾かれた短剣は瓦礫の中に隠れるように音を立てて吹き飛んで行った。
ファウラを背に庇い、ハヒェルの首筋に躊躇なく剣を向けるその姿はもうどこにも迷いは無かった。
「我が名はルイゼルト・フォール・クラネリシア。神官長ハヒェル・ドスドーク、お前は陰謀を企てた主犯格及び、俺の婚約者に手を出したことにより正当な裁きを受けてもらおう。楽に死ねると思うなよ――ファウラを傷つけた罪は死ぬなんて簡単な事では済まされないんだからな」
悪魔のような威圧的な空気に、今にも喉を斬り裂かれてもおかしくないとハヒェルは悲鳴を上げ……そのまま気を失った。