悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。




「これは、そのどういう事……?」



 思わず混乱した気持ちのまま呟くと、ファウラの言葉を掻き消すような慌ただしい声が部屋の外から聞こえてきた。



「陛下はまだ謁見の間に到着していないんですよ?!お連れしてどうするんですか!」


「で、ですがユト様!侍女達の元には陛下が到着したとの報告が入ったと!」


「それは城に着いたってだけで、支度も何も整ってないんです!あーもうっ!」




 隠す気の無い慌てっぷりからして、ファウラ一人が振り回されているわけではなさそうだ。無駄にドキドキする心臓を抑えようとすると、申し訳なさそうに扉が開いた。

 鋼色の髪を揺らしてやって来た一人の男は、爽やかな笑顔を浮かべてファウラの元へとやってくる。慣れた様子で、綺麗に一礼してそっと微笑んだ。



「お初にお目にかかりますファウラ殿下。私、ルイゼルト陛下の側近、ユトと申します。以後お見知りおきを」


「初めましてユト様。レゼルト王国第三王女、ファウラ・レゼルトです。あの、お聞きしたいのですが、陛下は?」


 恐る恐る聞くファウラに何も心配要らないとでも言うように、ルトは爽やかな笑顔を浮かべたままファウラの隣へやってくると、窓の外を見るように促した。



「初めての場は緊張なさいますでしょう。この城から見えるこの景色をまずは一人楽しんでいただきたいという陛下の計らいです。あそこに見えるのはヘイブコート山脈。冬になると白く美しい雪の衣装を纏って、それはとても見事なんですよ」


「雪が降るのですね」


「はい。柔らかい綺麗な雪が降りますよ。春はその雪解け水がまた口どけが良い優しい水で、とても美味しいのでも有名です」


「そうなんですね。とても楽しみです」
 

 景色を眺めながら、平然と話を聞いているもののまたしてもこれは時間稼ぎの技であることを感じ取り、この場はもう相手に任せることにした。






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