悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
その場に身を任せた方が、何も考えずとも相手が転がしてくれるのだから、そちらの方がいささか楽なのを知っている。
王宮暮らしの方が長いとはいえ、街での濃い時間を過ごしてきたせいか、気を抜くと王女としての仮面が剥がれそうになるのに気を付けながら居ると、部屋の外から気配を感じる。
(悪しき穢れの力……?かなり強い力で判断が付かない)
話を聞く振りをしながらバレないように力を探っていると、扉の外が妙に騒がしい。
はっとユトが表情を一瞬変えて、扉の方へと近づいていく。
「少々お待ちくださいね」
「あ……」
扉の向こうで感じる嫌な気配にユトを止めるべきか悩んでいたが、その気配は自ら扉を大きく開けてやって入ってきた。中に引きとめようと必死になる侍従達だが、それすらも払いのけるようにしてユトに近づいていく。
「ギリギリ間に合わなかった、そんなところか」
その一言と見せた姿に、あれだけ緊急事態にも対応しきっていたユトだったが、血相を変えて声を荒げた。
「急いでとは言ったけど、何も着替えなしで来てなんてとは一言もっ――!!」
「少しでも早く妻に会いたかった、それでいいだろ」
投げやりに答え、旅服に返り血が着いた格好で現れた男は、ユトが噛みつく前に颯爽とファウラの前に立った。互いに見合って、その場の時間が止まったように動かなくなる。