悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
「こんな時間まで、明日の分の仕事までやらなくていいんじゃない?陛下」
「粗方終わらせていた方が、今後いざと言う時に動きやすいだろ」
「まったく……」
仕事を取り上げるように予算案や明日分の書類を奪い取ったユトは、手際良く片付け始める。
集中力が丁度切れていた事だと、その行動に口出しすることなく、用意された紅茶へと口を付ける。
紅茶を飲み込み、温かさが体全体に広がっていく中、ユトの言葉に一瞬にして熱が奪われた。
「ファウラ様だけど、あの子浄化の力の使い手だった」
「……」
「最初は見間違いだと思ったけど、身に纏う光……あれは確実に浄化の力だ。まったく……レゼルト王国は彼女を送り付けて何を企んでいるんだか」
「それで?見た事を本人には言ったのか」
「言ってない。多分、僕には見られていないって思ってる」
そうかと小さく呟き、紅茶の入ったカップを机に戻す。静寂が二人を飲み込もうと、ゆっくりと近づいてくるが、それを払い除けるようにルイゼルトが口を開く。
「俺が知ったことをファウラに悟らせるな。ようやく見つけた鍵だ……レゼルト王国がどう出てこようが、逃がすものか――例え、戦になったとしてもな」
今まで抱いてきた感情を捨て去るようにそう呟いて、窓から見える彼女の部屋を見つめた。
最初から嫌われていたのだ。こうなってしまえば寧ろ好都合だと、不敵に笑う。
彼女に感じてきた感情は全て、自分の鍵を手に入れるための感情だったのだと思えば、納得がいく。
(国の為の小さな犠牲は、いつだって付き物だ。今回のだってそれと同じだ)
怪しく輝く月に照らされるルイゼルトは、どこか切なげに映し出されていた。