悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
着替えが終わったことにすら気づいていないファウラは、扉が叩かれ入ってきた人の気配に気づくことなく花を見つめていた。
「おはようございます、ファウラ様」
「ふぁっ!」
すぐ真後ろで声が掛かり、驚きのあまり変な声が出たと口を塞ぐが、もう遅いこと。ファウラは聞かれた変な声に俯きながら、後ろを振り返るとユトが立っていた。
ここは笑っていい場面だと言うのに、ユトは涼やかな表情を浮かべている。流石、城で働いている者は違うと、心の中で白旗を上げた。
一番共に過ごす時間が長いことから、ユトに打ち解けていったファウラは、取り繕うことなく自然体のままで彼に挨拶を返す。
「おはよう、ユト。ごめんなさい、驚いてしまって……」
「いえ。可愛らしいお声が聞けました」
(んもうっ!そういう事は一々言わなくていいのにっ!!)
頬を膨らましてそっぽを向いてやりたいが、綺麗に流して微笑みを浮かべることを徹底する。さらりと恥ずかしい事を平然と言うユトに、毎度全てに反応していたら、心が持たないと学習したのだ。
ユトにエスコートされるようにして、ダイニングルームへと向かいながら、先程の悩んでいたことをとりあえず一度置いておこうと、歩くことに集中する。
爽やかな朝の風を感じながら移動すれば、心は綺麗に洗われていく。