悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。



 城内の中もだいぶ覚えてきたお陰で、ダイニングルームへ向かう途中の庭園が見える僅かな場所で、花の香りを満喫するように深呼吸するのも日課になりつつある。落ち着いた心で、美味しい食事が摂れる状態になったと、小さく頷いてダイニングルームへと続く扉をユトが開けるのを待った。

 開かれた扉から降り注ぐ光に、僅かに目を細めて前へと進むと、美味しい朝食の香りが胸いっぱいに広がり――。




「来たか」




 先客の声に、ファウラの顔が思わず引き攣る。

 ファウラがいつも座る席と向かい合わせに座り、本を片手に紅茶を嗜む綺麗な顔立ちが彼女を捉える。相変わらず、どんな仕草をしていても一枚の絵になるのはどうしてだろうと、少し羨ましくなる。



「おはよう、ございます……陛下」


「……」




 ぎこちない敬語のまま、朝の挨拶を声を振り絞って出したというのに、ぽかんとした様子でファウラの姿を見つめるルイゼルトに、またしても何か嫌味を投げつけられるのではないかと視線を逸らす。



「ああ……お、おはよう……」



 一瞬だけだったが、耳が赤く染まっているのが見え、きっと笑いを堪えているのだと思うと、どう立ち振る舞っていいのか分からない。まともに挨拶も返してくれないとなると、俯いて席へと歩み寄る。





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