悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。
「しかも貴方様があのファウラ殿下だとは知らず……ご無礼をお許しください」
「いえ。お気になさらないでください。御陰で何とか自分の役目を果たせましたから」
「挨拶、とても立派でしたよ。でも……それより」
知らない力強いリードをされ、思わずエルディンと繋いだ手に力を込めると、どこか挑発するかのような熱い目と視線が絡み合う。
「貴方は今まで出会って来た女性の中で、一際目を惹く方だ。私の心を掴んで離さない」
「……っ!」
いきなり近づいてきた顔は、にやりと口元に弧を描いた。
「見れば見る程欲しくなる……このまま連れ去りたいくらいに」
耳元でそっと囁かれ僅かに熱くなるものの、その熱はすぐに冷める。助けようとした気持ちには嘘はないが、耳に届く言葉はどれも響かない。
言葉に乗せる想いが何一つ無い事を、ファウラはすぐに分かった。
「エルディン様、私の事……警戒されてますね」
リードされるままにステップを踏むと大きくその場で回り、花のようにドレスが広がった。
負けじと力強い視線を送れば、参ったとエルディンは声を出して笑った。
「あっはは。どうやら、鋭い目を持つ方のようだ」
「試したのですよね。私が陛下に相応しいかどうか」
「悪気があった訳ではないんだ。そこはどうか信じて欲しい」
「分かっております。陛下の事を想って、ですよね?」
こくりと頷いたエルディンは可憐にファウラをリードしダンスを終えると、敬意を示すように彼女の手の平に口付けた。