それは手から始まる恋でした
「お腹一杯です」
「そりゃ高良君が差し出したデザート全て食べたらそうなるよ」
「だって全部美味しかったんです。戸崎さんありがとうございます」
「喜んでもらえてよかった」

 高良は少し不服そうな顔をしている。私が高良ではなく戸崎さんにありがとうと言ったのが気に障ったようだ。ご馳走になったお礼は言ったのでこの顔は、美味しいものを選んでシェアしたのは俺なのになんで戸崎さんなんだと言いたいのだろう。高良ばかり褒めると変に思われるので高良には悪いがここは無視しよう。

「私ぃあれやりたいですぅ」
「ガラス細工。面白そうですね」
「よし、行こう」

 私の一言で高良が動いた。オリジナルのトンボ玉を作り体験をやっていた。

「うわぁ高良さん上手ですぅ」
「鮫島のも悪くない」
「本当ですかぁ」
「波野さん、大丈夫?」
「ダメです。私向いてないです」
「交換しようか」
「戸崎さんのすごくいい感じじゃないですか。駄目ですよ。私のことは気にしないでください。最後までやり遂げます」

 簡単にできるトンボ玉作りと書かれていたはずが、私が欲張りすぎたのか上手く形が作れない。

「これぇなんですかぁ?」

 最後までやり遂げたトンボ玉もどきは丸とはいいがたく、模様として付けたつもりの色がガラスの色をくすませ、禍々しい一品ができていた。

「なんだこれ」

 高良は手品のように私の作ったトンボ玉と彼作ったトンボ玉を入れ替えて私に渡してきた。何をしたいんだろう。でも悔しいが高良の作ったトンボ玉は綺麗だった。私は皆に見えないようにそっと手に隠して鞄へ入れた。

「あっという間にもう時間だね。そろそろ戻ろうか?」

 私達はタクシーで旅館に戻った。

「波野さんの部屋ってぇ露天風呂があるんですよねぇ。私もその部屋がいいですぅ。一緒にいいですかぁ」

 ロビーで鍵を受け取った鮫島さんが私にすり寄ってきた。

「ダメだ。部屋割りはもう決まっている。一人一室にしているんだ。感謝しろ。それに波野さんは打合せがあるから俺の部屋の隣にしているんだ。皆のようには自由に遊べないからせめてもの償いだ」
「高良さんってぇ波野さんにぃ優しいですよねぇ」
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