それは手から始まる恋でした
「別にそんなんじゃない。俺は鮫島にも優しくしている。お前の部屋に泊まったカップルは結婚するらしい。戸崎さんを連れ込んでもいいぞ。頑張れ」
「なんですかぁそれ。それに戸崎さんわぁ同じ部署の女性に手は出さない主義らしいですぅ」

 戸崎さんは一足先に部屋に向かったのでここにはいない。

「言っているだけだ。鮫島みたいに可愛くて魅力的な子が浴衣でいたら落ちない男はいない」
「えぇじゃぁ高良さんがぁ来てくださいよぉ」
「残念だが俺は落ちない。唯一の例外だ」

 どんな会話だ。私は早く部屋に行って一息つきたいが、高良が鍵を持ったままだ。

「鮫島。浴衣着て夕食に来い。俺が上手く戸崎さんとの仲を取りもってやる」
「本当ですかぁ。上手くいかなかったらぁ高良さんが責任取ってくださいよぉ」
「あぁ、取る取る。さっさと部屋に行って準備しろ」

 高良は意味がわかって責任を取ると言っているのだろうか。

「ようやく二人きりだな」

 高良がつぶやいた。
 私が泊まる部屋は旅館で数部屋しかない特別な部屋らしい。高良が鍵を開け引き戸を開けた。

「ここが部屋だ。入れ」

 言われるまま中に入るとそこには広々としたモダンな和室が広がっており、その隣にはキングサイズのベッドが置かれていた。そしてその先には大きな露天風呂。夢のような空間だ。

「ちゃんと冷えた酒を用意させている。ルームサービスもできるから宴会ではあまり飲むなよ」

 高良は冷蔵庫を開けて見せた。

「はぁ。ありがとうございます」

 部屋でゆっくり飲めるのはありがたいが色々制限つけすぎではないか? それに高良は何故私の部屋の中を歩いているのだろうか。

「あとは自分で見るので大丈夫です」
「そうか。じゃあ俺はちょっと仕事をする。宴会開始の10分前くらいになったら会場に行って適当に皆を座らせておけ」
「あの、何故そこに座ってパソコンを広げているのでしょうか?」
「何故って仕事をするからだ」
「お部屋でお仕事していただけませんか?」
「俺の部屋もここだ」

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