それは手から始まる恋でした
「ん? 隣の部屋でしたよね」
「皆には言うなよ。面倒なことになりそうだからな」

 高良は満面の笑みを浮かべている。かわいい。じゃない!

「え? じゃあ、ここに私と高良さんが? バレますよ。絶対バレます」
「バレたらバレた時だろう」
「いやいや、穂乃果さんはどうするんですか? 結婚するんですよね。結婚前の男が何もしないとはいえ女性と二人で一緒の部屋に泊まるなんて駄目ですよ」
「俺はする気満々だ」
「でしょ。結婚するんでしょ。他に部屋空いてないか聞いてきますね」
「結婚はしないし他の部屋は空いてない。鮫島のところに行こうなんて考えるなよ。今日は確実に戸崎さんを連れ込むだろうからな。お前は邪魔だ」
「鮫島さんの話は置いておいて、穂乃果さんとは結婚しないんですか? 全く話についていけません。一緒に住んでいるんですよね?」
「俺の家にはまだいるんじゃないか? 帰ってないから分からない」
「帰ってない? どういうことですか?」
「とりあえず座れ」

 私は距離をおいて高良の隣に座った。高良はパソコンを閉じて私の方を見て話し始めた。

「穂乃果には結婚できないと伝えた。俺の家は自由に使っていいと言って使わせている。俺が出ていけば早い話だったんだ。ごめん。穂乃果には紬に会ったり変な事したりしないように言っておいた。穂乃果とは会ってないだろう?」
「うん」
「つまり俺には婚約者もいなければ彼女もいない。紬に手を出したところで誰にも咎められない。だからこの旅行で俺はもう一度紬を落とす。そしてもちろんやる気満々だ!」
「いやいや。これは社員と親睦を築くための旅行でしょ?」
「そうでも言わないと紬は来ないだろ」
「そうだけどって、ちょっと何?」

 高良は私に覆いかぶさった。

「覚悟しろ。俺はもう怖いものなしだ」

 覚悟って何を覚悟したらいいのですか?

「安心しろ。無理やりする気はない。それに俺も少し仕事しなくちゃいけないからな。我慢させているならごめん。夜まで待て」
「我慢なんてしていません!」
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