それは手から始まる恋でした
 ゆっくりと私から離れた高良は今、カタカタと音を鳴らし仕事をしている。私は一人寝室に入り考え込んでいる。

 高良が穂乃果さんと離れて暮らしている。穂乃果さんとは結婚しない。展開が早すぎてよく分からない。ちょっと前まで結婚するって言ってたよね? そもそも穂乃果さんは諦めたの? 旦那さんとは修復したの? それとも離婚?

「時間だ。先に行って対応しろ。乾杯前には俺も行く」
「はい……」

 心の整理がつかないまま私は宴会場へ移動した。浴衣の子もいれば洋服の子もいた。高良と私の席以外は自由席になっている。
 高良の隣には鮫島さん、私の隣には戸崎さんが座った。これはダメだ。だってさっき鮫島さんに協力すると高良が言っていたではないか。私はこっそり鮫島さんに話かけた。

「鮫島さん、席交代しましょう」
「波野さん、ナイスです」

 乾杯の時間になって高良が会場に入ってきた。皆席に着いて高良を待っていたので、高良が席に着くや否や乾杯になった。

「高良さぁん、よろしくお願いしますねぇ」
「任せろ」

 高良は鮫島さんのアシストを上手にしていた。その間代わる代わる高良と話をしようと色々な人が話しかけてきていた。

「高良さんって将来社長になるんですか?」

 新人よ、すごい質問だな。

「あぁ。そして君たちがこの俺を支えることになる」
「高良さんって好きなタイプはどんな人ですか?」

 高良に気がある新人の女の子が果敢に質問した。

「可愛げのある子」

 私には可愛げがない。なぜ私の隣で正反対の事を言うのだろうか。

「高良君って彼女いるの?」

 戸崎さんの鋭い突っ込み。

「今はいませんが、すぐにできます」

 なんという大胆な発言。

「やっぱ将来社長になる人って違うんですねぇ。自信に満ち溢れててかっこいいです。僕もそうなりたいです」

 若手男性社員が高良を憧れの眼差しで見ている。

「いつも自信があるわけじゃない。でもこれだって思えるものがあれば強くなれるような気がする」
「それは目標みたいなものですか?」
「なんでもいいと思う。趣味でも仕事でも好きな人でも」

 高良の意外な一面も現れつつ宴会は順調に進み、その後まだ飲みたい人は部屋飲みすると言う事で散り散りになった。
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