それは手から始まる恋でした
 私と高良はそれぞれ潰れた社員を部屋に連れていき別々に部屋に戻ってきた。

「お疲れ。酒飲むか?」

 先に部屋に戻っていた高良は既にお酒を飲んでいた。私も少し貰う事にした。

「楽しかったな」
「うん。あっ、これ食べる?」
「食べる!」

 私は街ぶらしている時に美味しそうなチョコを見つけて買っていた。久しぶりに高良とこうしてゆっくりと過ごす。

 いつ触れてもおかしくはない距離を保ち私たちは遅くまで今日の宴会で見聞きした話をしていた。くだらない時間がとても大切なものに思えたのはきっと今日までの時間があったからだ。

 朝起きると私はベッドの上で寝ていた。高良が運んでくれたのか、寝ぼけて自分で移動したのか覚えていない。高良は和室に敷かれた布団の上でスヤスヤと寝息を立てて寝ていた。どこから持ってきたのだろうか。

 それにしても久しぶりに見る高良の寝顔はやっぱり美しい。前より少し大人びている気がした。

 高良が寝ている隙に私は寝室の前にある露天風呂に入った。最高だ。あと3日。この至福の時を味わえるなんて贅沢だ。

お風呂から上がると高良が起きていた。

「おはよう。お風呂入る?」
「部屋のシャワー使ったから大丈夫」
「そっか。今日はどうするの?」

 今日も自由行動だ。

「鮫島からのお誘いだ」
「お誘い? それはどんな?」
「ビール工場見学だと。昨日のリベンジで戸崎さんを酔わせて既成事実を作るって張り切っている」

 結局あの後戸崎さんは紳士的な先輩のまま後輩たちと部屋飲みをしていたらしい。

「諦めてなかったんだね」
「戸崎さんは俺の次に将来有望株だからな」

 私達4人は高良家の力を使い当日枠で特別に工場見学をさせてもらえることになった。

 正直そんなにビールなんて興味はなかったが、説明を聞いているうちに楽しくなってきた。

 見学後鮫島さんと高良が戸崎さんに次々とビールを飲ませていくが一向に酔う気配がない。ザルだ。そもそも酔った勢い任せとは鮫島さんはそれでいいのだろうか。

 鮫島さんも酔ってきたようだが、演技なのか本当に酔っぱらっているのかが分からない。鮫島さんは戸崎さんの手を握って戸崎さんの腕を胸で挟んでいる。あれで落ちない戸崎さんもすごい。

「鮫島って胸大きいな」

 高良が私に向かってつぶやいた。

「そうね。高良さんも隣に座って手を握ってもらったらどうですか?」

 高良は私の方を見てニヤッと笑った。

 どうせ男なんて……。どうぞ彼女の手や胸で楽しんでくださいなと私は不貞腐れた。

「波野さん、どうしたの? そんなにムッとして。これは鮫島さんが離してくれないだけだからね」

 何故か戸崎さんが言い訳をしている。

「波野さんって俺の事好きだよね?」
「え?」

 鮫島さん、高良、私の3人が一斉に顔を歪めた。

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