それは手から始まる恋でした
「つべこべ言わず手と足を動かせ」

 一通り片付けと掃除が終わったところで高良が使っているグラスを下げようとした。すると高良は私の手を掴んだ。

「これ片付けたらもう終わりですから、お酒飲みたいなら帰って飲んでください」
「お疲れ様です。よく頑張りました」

 高良はにっこり笑いながら私を膝の上に座らせ頭を撫でてきた。

「酔っぱらいですか? だからおつまみ作りますかって聞いたんです」
「つまみは紬で十分だ」

 高良は私の耳元で囁き耳たぶを噛んだ。

「帰りますよ」
「ダメ」

 高良は私の太ももに触れながら優しくキスをした。長く甘いキスだった。待ちわびたキスはお好み焼きとお酒の香りが充満していた。

「仁? 普通この状況で眠れる?」

 寝息を立てて私の肩に頭を乗せた高良は全く動かない。

 こんな事ってあるの? でも今日は頑張ってたもんね。自分で蒔いた種とはいえ鮫島さんに協力したり、柄にもなく後輩の相談に乗ったり、焼いて皆んなと会話して楽しませていた。

「よく頑張りました」

 私がぎゅっと高良を抱きしめると高良もぎゅっと抱きしめ返してきた。

 私は旅館に連絡を入れて迎えに来てもらった。私達は高良を何とか部屋のベッドに寝かせた。

 翌朝高良の叫び声で目が覚めた。

「紬、紬!」

 今日は高良がベッドで私が布団、それぞれ別々に寝ていた。ドアが開く音とともに私を呼びながら高良が私の上に覆いかぶさった。

「おはよう」
「おはよう。俺寝てた。いつ寝た? どうやって帰って来たんだ?」

 私は高良に事情を説明した。高良は私の隣に座り頭を押さえて下を向いていた。

「ごめん。飲みすぎた」
「旅館の人にお礼言っといてね」
「ああ。その前に昨日の続きを」

 高良は私を布団の上に押し倒した。

「だめ~! 今日は鮫島さんと美術館に行くからそろそろ準備しなきゃ!」
「今まで寝ておいて、いきなりなんだよ」

 私は昨日、重大な事実に気が付いた。

 この旅行で万一があってはいけない。その万一を避けるためにも下着は全部木綿製、まるで小学生のようなパンツをわざわざこの旅行の為に買った。そして戒めのためにもそれ以外は持ってきていない。昨日お風呂に入った時に気が付いた。結婚を取りやめていたなんて知らなかったしこんな展開は予想していなかった。こんなの高良に見せられない!
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