それは手から始まる恋でした
「なんでダメなんだよ。やっぱり戸崎さんが好きなのかそれとも永井さん?」
「違うよ。私が好きなのは仁で、仁以外は考えられないから」
「じゃあなんで?」
「なんででも。それ以上近づいたら怒るよ。本当に準備しなきゃ鮫島さんが来ちゃう」
「分かった。俺も行く」
「ダメ。今日は女子だけなの」
「なんだよそれ」

 何とか高良を説得して私は鮫島さんと待ち合わせしていたロビーに向かった。昨日の夜に鮫島さんから二人で行きたいとの連絡を受けていた。珍しい事もあるものだ。

「波野さぁん、おはようございまぁす。いっきましょう」

 鮫島さんはご機嫌だ。なんと昨晩も戸崎さんと一緒に過ごしたらしい。なんだかんだ言いながら戸崎さんは鮫島さんに夢中なようだ。

「鮫島さんって本当にすごいですね」
「そうですかぁ? 欲しいものは欲しい。手に入るものは試してみる。一度きりの人生ですもん、楽しまなきゃ」

 私が鮫島さんだったら高良ともっと恋愛を楽しめていたのかもしれない。

「というわけでぇ、今日もお誘いされているんですよぉ。もう朝から激しかったのに夜もですよぉ」

 とても幸せそうだ。

「あっ高良さんから連絡だぁ。波野さんに仕事の話があるから帰すように、ですってぇ。一緒にいたいって素直に言えばいいのにぃ。男の人ってこういうところありますよねぇ」
「鮫島さん」
「大丈夫ですよぉ。私は言いませんからぁ。でもぉ高良さんの態度見てたら誰でも気が付くと思いますよぉ。さすがに社員含めての旅行は墓穴掘ってるって感じですよねぇ」
「え? あの酷い態度でですか?」
「だってぇ、高良さんの目ってぇいっつも波野さん追ってますもぉん」
「それは監視ですよ。監視。仕事をちゃんとしているかって」
「あんな愛おしそうな目で見てたらぁそんな言い訳通じませんよぉ。それとも波野さん本気でそんなこと思ってるんですかぁ? モテなさそぉう」

 その通りだ。素直に相手の気持ちを読み取る事だってできない。
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