それは手から始まる恋でした
 高良から招集をかけられた場所はお店が立ち並ぶ旧軽井沢銀座通りだった。

「これ食うか?」
「うん」

私は高良からコーヒー味のソフトクリームを受け取った。

「美味しい。仁も食べる?」
「ああ」

 私が手に持ったままのソフトクリームを一口食べた。

「なんかデートみたい」
「デートだろ」
「仕事です」
「可愛くないな。仕事中に俺を名前で呼ぶなんて減点対象」
「あっ」
「嘘。そんなことで減点はしない」

 そう言うと高良は私の手を繋ぎ、彼のコートのポケットの中に入れた。

「誰かに見られるよ」
「大丈夫だ。俺は紬のことを通す気はない。時期をみて両親にも会ってもらう」
「それはまずいよ」
「俺もそう思う。社員に手を出すなって親父に言われているから怒られる」

 高良は眉毛を下げながら捨てられた子犬のように私を見てきた。可愛い。可愛すぎる。今すぐぎゅっとしたい。でも今はそんなこと思っている場合じゃない。

「そうじゃなくて、私みたいな人紹介したらだめってこと。良家で育った穂乃果さんみたいな人じゃないとご両親も不安に思うでしょ」
「何を不安に思うんだ?」
「だから私を紹介したら結婚とか言い出すんじゃないかって心配するでしょ」
「俺は反対されても紬と家族になる」
「家族になるって意味分かってる?」
「分かってるよ。だからいつか俺の実家に一緒に行こう。その時は親父に怒られた俺を慰めてくれ」

 きっと結婚は無理だ。でも少しだけ、少しだけ高良を信じて私も頑張ってみよう。何を言われても高良の両親に認めてもらえるまで、高良が望む限り頑張ってみよう。

「分かった。一緒に怒られてあげる」
「俺は慰めてくれと言ったんだけどな」
「私癒し系じゃないもん」
「分かってないな。紬が側にいるだけで俺は癒されるんだ」

 恥ずかしくて何も言えずにいるとポケットの中の手がより一層強く握られた。

「行きたいところがある」

 高良に言われて向かった先は教会だった。

「素敵」

「だろ。ここ好きなんだ。なんか神秘的で落ち着く」

 誰もいない教会を二人で手を繋いで歩く。本当の結婚式はできないかもしれない。そしたらこれが私の一生で一度のバージンロードだ。

「なんだよ」

 私が繋いだ手をほどいて腕を組むと高良は驚いていた。

「なんちゃって結婚式」

「予行練習か」

 高良は笑顔になった。幸せだ。私の頭の中では素敵な結婚式が行われている。お父さん、お母さん、姉夫婦に甥っ子、港そして沢山の友達や会社の人達が私たちを笑顔で見つめている。

「そんなに嬉しいのか?」

「うん。嬉しい」

「紬は本当に可愛いな。一生俺の側にいてくれますか?」

「はい」

「一生側で紬を幸せにします」

 高良とキスをした。
< 115 / 118 >

この作品をシェア

pagetop