それは手から始まる恋でした
 最終日の夜、私は高良と部屋で戦っていた。部屋で豪華ディナーを食べ終えデザートを食べながらこの後のことを話している。

「なんで一緒に住まないんだ」
「だからもしものことを考えたら一人で住んだ方がいいんだって。たまには遊びにいくから」
「たまにじゃ駄目だ。さっき一生側にいるっていっただろ。毎日俺の側にいろ」
「それはそうだけど、会社でも会ってるしそれに……」
「それになんだ?」
「もし別れたら」
「別れない。何度言ったら分かるんだ」
「人の気持ちなんて変わるんだよ。今回は港がいたからいいけど家を探すのだって大変なんだからね」
「それは聞いた。でも分かった。絶対ないけどもしそういう事になったら俺が出ていく。紬は住み続ければいい。それ以外の選択肢はない。以上。この話はもう終わりだ」

 高良は強引だ。だが私のために新しい部屋を借り全部新調したらしい。その思いに根負けした。

「今日は一緒に寝よう」
「絶対無理」
「なんでだよ。俺らは付き合っているんだよな。それにまだ一回も」
「ごちそうさまでした。絶対無理」
「分かったよ」

 にっこり笑っているが何とか諦めてくれたようだ。これから嫌でも毎日会うんだし、今日は我慢してくれたのだろうと思っていたが甘かった。

「ぷっ……イチゴって小学生か? もしかして俺を避けてた原因って」
「何してんの!」

 私が月見風呂を堪能していると後ろから高良の声がした。振り返ると裸で下半身にタオルを巻いた高良が私の脱ぎ捨てていたパンツを持っていた。

「何って一緒に風呂に入るんだよ。風呂は断られてないからな」
「拒否。断固拒否します!」
「あまり騒ぐと聞かれるぞ」

 高良は露天風呂に入ってきた。そして私の方にジリジリと向かってくる。

「なんで風呂の中でタオル巻いてんだよ。外せ」
「嫌です」

 高良は私のタオルを取り上げて後ろから抱きかかえるように座った。

「綺麗だ」

 高良は私の手を月明りにかざして言った。

「どうせ私の取柄は手だけですよ」
「ずっとそうやって言ってろ。シワシワだろうとヨボヨボだろうと紬の手は俺の一番だ」

 私はぎゅっと高良の手を握り、高良の方に体を向けた。

「どういう意味?」
「だから……その、この先もずっと紬のことが大好きだ」

 耳まで赤くして目を伏せている高良に私はそっとキスをした。

「大好き」

 久しぶりの高良の匂い、体温、腕枕、そして私に優しく触れる綺麗な手。私がずっと望んでいた全てが今ここにある。
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