それは手から始まる恋でした
手なんか触らせません!
 彼氏いない歴31年。更新記録は思いがけない形で止まった。これは止まったと言えるのだろうか。あの後彼は海外からの連絡を受けてテレビ会議のため会議室に籠った。私は暫く待っていたが出てくる気配がないので置手紙を残して帰宅した。その手紙には一応私の連絡先も書いたが、1度も彼からの連絡が来ていない。

 彼氏って何ですか?
 お付き合いって何ですか?

「お待たせ。紬が連絡してくるなんて珍しいね。何かあった?」

 私は大学時代からの男友達、永井(ながい)(みなと)を呼び出していた。大学時代の女友達は既に結婚し、子供もいて休日の夜に呼び出しができるような状況ではない。港は優しくて誰とでも仲が良く、女子にも人気があり、昔は女子顔負けの可愛らしい顔立ちでまさに女友達のようだった。互いに恋愛対象として見ていないので夜でも呼び出せる気楽な相手だ。

「確変が起きた」
「確変の意味分かってる?」
「分からない。イメージよ、イメージ。なんかそんな感じなの」
「分かったから落ち着いて。まずは状況説明してみようか」

 私はオブラートに包みながら港に高良のことを説明した。

「ははは。それはお金持ちの遊びだよ。なんで社長息子が一般人の、しかも6つも年上の紬を彼女にするの? そんなの真に受けちゃダメだよ。紬が傷つくだけ」
「だよね。私バカだね。連絡先メモって置いてきたこと笑われてるかも」
「笑ってたら僕が成敗してあげるよ」
「ありがとう。私の味方は港だけだよ。そう言えば彼女とは最近どうなの?」
「あぁ、別れた」
「なんで? 美男美女カップルだったのに」

 港は見た目に寄らず肉食系男子である。来るもの拒まず去るもの追わずを地で行くタイプだ。

「今は絶賛彼女探し中。フリーだし、添い寝してあげようか?」

 港は冗談でいつもこんなことを言う。学生時代港の家で飲んでいた時に私が酔っぱらって港に抱きついたまま寝てしまったことがあった。朝起きると港は微動だにせず私を見つめていた。きっと港も驚いていたのだろう。私は港を抱きしめていた腕を離し、無礼を詫びて港の家を出た。

 次に会うときは気まずいだろうなと思っていたけれど、港はいつもの可愛らしい笑顔で何もなかったように挨拶してきた。あの一件以来、宅飲みをしても私たちはいつも別々に寝る。それが私たちの暗黙の了解だ。
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