それは手から始まる恋でした
 既に時刻は11時半。これからチェックをするとお昼時間に影響する。早く終わらせなければと始めたチェックは予想以上に時間を費やした。高良が怒るのも分かる。虫食い状態の資料は肝心なところが抜けている。

 鮫島さんに聞きたいが、その鮫島さんはトイレに行ったっきり戻って来ず、お昼休憩に入った。彼女が戻ってくることはなさそうなので私は会社のサーバーにアクセスし、必要な情報を取り出していく。お腹が鳴るが高良が戻ってくる前に終わらせなければならないプレッシャーがあるので我慢だ。

 何とか必要なデータと間違っていたデータを修正できたが時間は既に1時を過ぎていた。まだ高良は戻ってきていない。休憩時間は御曹司には関係ないようだ。

 高良の確認が終わらないと気が休まらないのでなり続けるお腹を必死で抑え、彼の戻りを待つ。皆と席が離れていてよかった。

「高良さん、終わりました。確認お願いいたします」

 高良が戻ってくるとすぐに私はUSBを手渡した。高良は不自然に私の手に触れながらそれを受け取った。触れられると全身がぞわっとしてあの日の感覚がよみがえった。
 高良は何事もなくデータを確認している。
 
「うん。大丈夫そう。今度からこんなミスはないように」
「申し訳ございませんでした。あの、実はお昼に行きそびれたのですが、少しだけ出ても大丈夫でしょうか?」
「はぁ? 休憩してないのか?」
「はい。ちょっと手間取ってしまって」
「もしかして自分でやった?」
「はい」
「はぁ。こんなの鮫島にやらせればいいのに。仕方ない。ついて来い」

 私は半ギレの高良について行った。行きついた先は会議室。これから説教だろうか。お腹が空いている時にそれは辛い。

「ここで少し待ってろ」

 高良は私に彼のラップトップを手渡し、どこかに消えていった。

 お腹はもう鳴らすことも諦めて大人しくしている。もういいか。自販機でコーンポタージュでも飲んで今日は乗り切ろう。
 10分ほど経ったころようやく高良が戻ってきた。

「遅くなってごめん。今日の分終わってたみたいで、作らせてたら時間かかった」

 高良の手にはお弁当と飲み物が入った袋がぶら下がっていた。

「温かいうちに食え」
「あっはい。ありがとうございます」

 高良は机にお弁当と飲み物を置いて私を座らせ、その隣で仕事を始めた。高良はチラチラとお弁当を見ている。もしかして高良も食べたいのだろうか?
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