それは手から始まる恋でした
 高良は、横向きに机の上に倒れた私の腕を掴んで押し倒した。私の両腕は既に高良の手で押さえつけられている。逃げられない。

「何するんですか?」
「何って彼女とイチャイチャ」
「イチャ……駄目ですよ。何考えてるんですか」
「普通彼氏と会社でこんな状態になったら喜ぶんじゃないのか?」
「喜びませんよ。離してください」
「あまり騒ぐと誰か入ってくるかもしれないな」

 高良は手をゆっくりと移動させ行く。スーツを着ているから手を触られた時ほど感じることはないが、それでも私の真上に綺麗な高良の顔があるだけで心臓の動きがどんどん激しくなってく。

 手のひらに高良の指が触れる。駄目だ。これ以上触られると自分を止められそうにない。

「ダメ……です……」

 ゴクン……

 高良の唾をのむ音が聞こえた。これはどう考えても大人の階段しか上らない。胸のざわめきも別のものに変わっていきそうだ。
目の前には高良が着ている白いワイシャツ。

 ……あれ? こういうときって彼の顔が目の前にあって、キスを迫られるんじゃないか? 何故シャツ?

 手のひらにじっくり触れた後、高良は私の手を裏返し、手の甲を触っている。そして彼の唇が優しく私の手に触れていく。私は彼の荒い息遣いを手で感じていた。大人の関係はこんな風にじっくりと始まるのか。

 私は今すぐにでも高良とキスがしたい。でもそんなこと恥ずかしくて言えない。

 早くこっち見て!

 彼は左手を堪能し終えると右手へと移った。いくら何でも手に時間をかけすぎじゃないか?

 正直私はこんなことには疎いが、ご飯を食べ終えた頃には休憩時間残り30分だった。どのくらい時間が経ったか分からないが私を見ることなくずっと手を触り続けている。

 好きならまずキスじゃないのか? 
 キスの場所はもちろん唇だ。

 彼は紳士なのか? 
 これは王子様がお姫様にするようなキス?
 だから手? 

 いや、彼は私の手を見て私を思い出した、何度も手を重ねようとしてきた。年齢がどうのこうのと言って私の手を触ってきた。さっきもお弁当だと思っていたが、私はお弁当を手で持っていてそれを指摘された。
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