それは手から始まる恋でした
   ***

「なんだよ、仁。そんな暗い顔して」
「いや、ちょっと上手くいかなくて」

 波野さんにお弁当を買って、美味しいと笑顔で言われて可愛いと思った。やっぱり彼女に触れたいと思った。手だけ繋げれば我慢しようと思ったが、彼女は俺を挑発してきた。
 手に触れられることが嬉しくて自分の自由になることに快感を覚えてじっくり味わっていたら何故か怒られた。あれから一週間、彼女は本当に指一本触らせてはくれない。できる限り時間を見つけて会社に行くようにしたが、彼女は俺を見ると警戒心をあらわにする。

「初めから警戒心の強い女性だと思ってたけど、完全に警戒されたらなすすべなし」
「あはは。百戦錬磨の仁がお姉様に転がされるなんてな」
「俺の何が駄目なんだ?」
「そりゃ、連絡先書いたメモをその日に無くして正直に言えずに今日まで聞くことができない気弱さだ」
「気弱じゃない。普通女なら、なんで連絡くれないんだとか言ったり、俺の連絡先を無理やり聞いたりしてくるだろ」
「それは仁のことを好きな女だからだろ。つまりホッカイロちゃんは仁のことを好きじゃなかったってわけだ」
「それはない。だってあの顔は俺に惚れたって言っているようなものだ」
「仁の勘違いだろ。ホッカイロちゃんはお前の反応を楽しんでいるのかもな」

 どう見たって俺に惚れている顔だったし、男慣れしていない感じだった。過去に遊んでいたと言っていたが、あれは絶対に嘘だ。触れられることに慣れていない女だ。いたとしてもせいぜい彼氏で数人レベルだ。もし本当に遊び人ならうぶさを売りにして男を転がしまくっているやり手だ。

 そうなのか? そっちなのか? そうするとあの手は多くの男の……!

「あ~駄目だ。限界だ」
「ホッカイロちゃんを諦めるのか。まぁそれが賢明かもな」
「誰が諦めるって言った? 完全に俺のものにする。俺だけの彼女にする」
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