それは手から始まる恋でした
「あの店はカードを使えるし、高級クラブだって今どきはカードが使える。そんなに多くの現金を持ち歩く必要はない。それにこんなに酔っぱらって現金持ち歩く方が危険だ。集合時間は早くても10分前くらいで十分だ。せっかくの綺麗な手があかぎれでも起こしたらどうする」
「本当に高良さんは私の手が好きなんですね」
「なっ、そんなんじゃない。お前の唯一の取柄が無くなるって言っているだけだ」
「酷い。そんなんじゃモテませんよ」

 私はむすっと口を尖らせて言った。

「タコ。……唇カサカサだな」
「リップ塗っても塗ってもカサカサなんです。潤い足りないんです」
「じゃあ後でとっておきのものやるよ」
「高級バームですか?」
「もうすぐ着くからそれまで大人しくしてろ」

 高良は空いた方の手で私の頭をポンポンとしてきた。これは港がたまにしてくれる。港とはちょっと違うがやっぱり頭ポンポンは好きだ。

「そうやってずっと笑ってろ」
「笑ってたら笑うなって言いそう」
「時と場合による」

 酔いのせいか何だか高良との会話が楽しい。高良が言った通りタクシーはすぐに止まった。外に出ると知らない風景だった。
「ここ私の家ではありません」

「俺の家だ。そして今日からお前の家でもある」
「はい?」

 後ろを向くとタクシーはいなくなっていた。前を向くと視界には納まらない高さのビルが建っている。上を向いても首が痛くなるほどに高いビル。永遠に縁がないと思っていた高層マンションが私の家?

 高良は私の手を引いてマンションに入っていく。コンシェルジュがいるマンション、まるでホテルのような内装。全てが初めの私はキョロキョロと辺りを見渡しながらついて行った。

 エレベーターに乗り込むと、高良は私の背後に周り、後ろから私の両手を掴んできた。

「何してるんですか?」
「なにって彼女を可愛がっているだけだけど」
「な、な、な……離れてください。今すぐに!」

 酔いは一気に冷めた。そして冷静になって思った。何をノコノコと高良についてきているんだ!

「あの、帰ります。今すぐに帰ります」
「ダメ。もう着いた」

 エレベーターが開き、高良は私を後ろから押して外に出した。男の力には勝てない。

「あのね、これは誘拐よ、誘拐」
「さっきまであんなに嬉しそうな顔してたのになんだその豹変っぷりは」
「そ、それは、こんなところ初めてだったから好奇心が勝ったというか……」
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