それは手から始まる恋でした
「高良さんなんて、すぐに私の虜ですよ」
「仁な」
「じ、仁……」

 は、は、恥ずかしい。港は下の名前で呼んでいるけどあんな感じだから抵抗感がなかった。だけど彼を下の名前で呼ぶのはなんだか特別感が出てしまう。

「顔真っ赤。あはは。可愛いな紬」
「か、か、可愛い? 今バカにしてるでしょ」
「してないよ」

 高良は私の手を取って優しく撫で始めた。離したいけど離したくない。もうどうしたらいいの?

「俺、風呂入るけど絶対に帰るなよ。帰ったら即刻クビだからな」
「……分かった。居ますよ、ここに」

 高良がお風呂に入っている間、私は昨日の続きを始めた。まずは朝食の食器を片付け、散らかった雑誌や書類をまとめた。なんだか本当に彼女みたいだ。ちょっとは高良の役に立っているといいな。

「紬って男の家に行くといつもそうやって片付けするの?」

 お風呂から上がってきた高良は上半身裸でぬれた髪をタオルで拭いている。見たことある! このシチュエーション!

「え? あぁ、綺麗好きだからね」

 嘘です。港も綺麗好きなので片付けたことはありません。港以外の男性の部屋は初めてです。

「それ男嫌がるだろう」
「え? そうなの?」
「まぁ俺は片付くからいいけど、資料は勝手に捨てるなよ」
「う、うん」

 男性の部屋を片付けて喜んでしまっていた。これは男性が嫌がることだったんだ。

「顔に出すぎ。落ち込むな。俺は嬉しい」

 しゃがみこんでいる私の前に高良は座り、私の手を取って笑顔で見つめている。こんな風に見つめられたら好きになってしまう。高良との時間が増えれば増えるほど私は高良を好きになってしまいそうだ。

「やっぱり私、一緒に住めない」
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