それは手から始まる恋でした
   ***

 どこで間違った? 強引すぎたのか? 部屋が汚かったからか?

 接待の後、彼女を家に連れ込みそのままの流れで同棲を始める。泣いて喜ぶと思っていた。添い寝もできて敬語もなくなり互いに下の名前で呼び合うことだってできたのに。

「部屋綺麗じゃん」
「紬が片付けてくれたからな」
「紬っていうんだ、ホッカイロちゃん」
「お前は名前で呼ぶな」
「はいはい。逃げられたのはどうせ余計なこと言ったんだろ」
「いや、勝手に男の部屋片づけるのは嫌がられただろうって言ったけど、俺は嬉しいって言ったし。でもやっぱりあれがまずかったのかな。明らかに落ち込んでいたからな。あぁなんで俺あんなこと言ったんだ」
「でもホッカイロちゃんはアパートを今月一杯で出なきゃならないんだろ。お前が勝手に次の借主あてがってるし」
「そうなんだよ。これで他の男と暮らし始めたらどうすればいいんだ?」
「自業自得だな」
「俺よりいい男がこの世にいると思うか?」
「いたから穂乃果は結婚したんだろう」
「穂乃果はスペックが高いからな。それに社長令嬢だ。紬は普通だ。特段綺麗でも可愛くもないし、あんな女に寄ってくる男なんてたかが知れてるだろ」
「お前はその一人な」
「俺は違う」

 どうしたらいいんだ。彼女が男と暮らす? つまりあの手は毎日他の男に触れられるのか? いや、女と暮らすかもしれない。女友達の家に行って、彼女の彼氏が遊びに来たりして紬の手に惚れてしまったらどうする?

「ダメだ。やっぱりどうにかして俺の傍に置く」
「仁ってそんなキャラだっけ? 去るもの追わず来るもの拒み自分の好きなものだけで生きる人生」
「なんだそれ? 俺は欲しいものを手に入れる。ただそれだけだ。二度と穂乃果と同じ道はたどらない」
「おっようやく穂乃果のことを認めたか。大人になったな」

 陵は笑いながら俺の頭を撫でた。
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