それは手から始まる恋でした
 高良は私に冷たいスポーツドリンクを手渡し、頭をポンポンと触ったあと手には触れずに外に出た。てっきり手に触れられると思ったのになんだか残念だ。でも頭を触られた時は嬉しかった。勘違いも甚だしいかもしれないけれど私のことを愛おしいと思ってくれているような気がした。

 高良がアイスを買いに行っている間に私は眠っていたらしい。手に冷たい感覚がありそれが次第に同じ温度になったときに目が覚めた。高良が片手で私の手をつないでもう一方の手でパソコンのキーボードを打っていた。

「打ちにくそうだね」
「あ、起きた? アイス食う?」
「うん」

 高良はアイスを取りに行った。またここに来るなんて思っていなかった。しかも今の話の流れで言えば恋人ごっこは継続ってことか。これは恋人ごっこなのだろうか。それとも本当に恋人……なわけないよね。

「バニラアイスだったよな」
「ありがとう」

 バニラアイスとは言ったが誰も300円もする高級アイスをねだったわけではないがこんなこともないと私の口には入ってこないのでありがたく受け取った。

「食べさせてとか言わないんだな」
「自分で食べれるよ。どんな女性と付き合ってきたのよ」
「別にそんなんじゃねぇよ。ただ風邪ひいたらよくアイスをねだって食べさせろって言ってくる妹みたいのがいたから」
「可愛い子だね。私もそんな風に可愛くなれたらいいのにな」
「じゃあ食わせてやる」

 高良は私が持ったアイスを取り上げ、蓋を開けてスプーンをさしている。そういうつもりで言ったんじゃなかった。ただ甘えられる可愛い女の子に憧れていただけで、食べさせてもらおうなんて思ってもいなかった。

「ほら、口開けて。ぷっはは。なんで目つぶってるんだよ」
「だ、だって恥ずかしいじゃん」
「キスするぞ」
「は? なんで?」

 驚いて目を開けるとスプーンが口元にあり、高級アイスが私の口の中に入ってきた。

 はぁ。美味しい。味覚が鈍っているのが勿体ない。

「……早く風邪治せ」

 高良は何故か顔を赤らめて目を伏せている。

「はい」
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