それは手から始まる恋でした
「今ので十分だろ。二人で寝ても余るぐらいだ」
「いや、もう買って結構経つしシングルだから二人で寝るのは……ん? 二人?」
「あぁ、一緒に寝るだろ普通」
「え? いやそれはその……ほら、私の部屋があるってことは別々にって意味だと」
「ベッドは一つ。一緒に寝る。そうだ、それも条件に入れるか。紬だけ条件を突き付けてくるのもおかしいからな。寝るときはいつも一緒だ。拒否権はない」

 墓穴を掘った。物置部屋は私の部屋より大きいし、シェアハウス的なイメージで別々だと思っていた。改めて考えると私は一歩どころではなくかなりいばらの道を突き進んでいるんじゃないだろうか?

「ベッドの真ん中に線を引くのは」
「却下だ」
「ですよね。そういえば昨日はどこに寝たの?」
「ソファーで寝た」

 ソファーと言っても重厚感あふれる高級ソファーだ。これならあまり罪悪感はないが一応謝っておこう。

「ごめん。ありがとう」

 私は、翌日出勤するために着替えを取りに一度家に戻った。本当に引っ越しをするのだろうか。自分のことなのに未だに実感が湧かない。高良が言うには必要なもの不要なものを分けておけば引っ越し屋が梱包までしてくれるらしい。とりあえず、いらないものを捨てることから始めよう。

 2日間寝てばかりだったので体は元気だ。懐かしいものから記憶にないものまで色々出てきた。港に貰った誕生日プレゼントはどれも実用的なものだ。このカップもこのお皿も持っていこう。こうやって見てみると私の持ち物は港からもらったもので溢れている。港にもちゃんと報告しなきゃ。

 会社に出勤すると私は噂の的になっていた。あのドS御曹司がお姫様抱っこして連れて行ったとなればそりゃ噂にもなる。どんな女かを確認したい女性たちが入れ代わり立ち代わり訪れていた。ここぞとばかりに鮫島さんは女性たちに私のことを教えているようだ。普段は女性が寄り付きもしない鮫島さんの周りには女性ばかりだ。
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