それは手から始まる恋でした
「あの、ご結婚されているんですか?」
「えぇ。新婚です」
「旦那さんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。彼は寛大な人だし、それに私と仁の仲だし」

 その仲が一番気になっているので教えて欲しいのですとは言えない。

「仁は風邪のときアイスじゃなくてリンゴなの。しかもすりおろししか食べないの。贅沢でしょ」

 彼女は私が買ってきたアイスを私の了承も得ずに食べている。

「私は風邪ひいたら絶対バニラアイスなんだけど、仁はいつもバカにするの。子供っぽいって。でもやっぱりアイスよね! 仁に言わなきゃ」

 高良がアイスを食べさせている人はこの人なんだ。こんな綺麗な人から言われたらそりゃ私でも喜んで食べさせるよ。

「波野さん、来てくれたんだ」

 波野さん、彼女の前ではそう呼ぶんだ。
 高良は気だるそうにリビングに出てきた。

「体調大丈夫ですか? すみません。勝手に来てしまって。私帰りますね」
「いや。ごめん穂乃果帰ってくれるかな。もう大丈夫だから。色々ありがとな。助かった」
「え? 私だったらまだ大丈夫よ。彼も帰り遅いって言ってたし」
「大丈夫。波野さん、仕事のこともあるし、ちょっと残ってくれる?」
「あ、はい」
「こんな時まで仕事しないの」
「穂乃果、本当に帰ってくれないか。あと、もうここには来ないでくれる?」
「え?」
「いくら旦那がいいって言ったって親の目もあるだろ。何かあれば実家に寄ってくれれば俺も行くから」
「そんな……」
「穂乃果が選んだんだろ。今までみたいに何もかも穂乃果の思いどおりになるとは思うな」
「仁、なんか変だね。疲れてるのかな。分かった。今日は帰るね。波野さんごめんなさいね。変なところ見せて」
「いえ」

 何となく、何となくだが、穂乃果さんと高良の間には何かがあるような気がした。妹とかそんな感情じゃない何かが。

 穂乃果さんを玄関で見送った後、高良は私と手を繋ぎリビングに移動した。

「ソファーに座れ」

 私は言われるがままソファーに座った。立ったままの高良に見下ろされるとこれから怒鳴られるような気がした。そんなに来たことがまずかったんだろうか。
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