それは手から始まる恋でした
「そうなの? 僕のこと全然男として見てなかった紬が?」
「昔だよ昔。でも今出会ってたら港と結婚したいって思ったかも」

 港は私に近づき、微笑んだ。

「結婚する?」
「ひゃは。女の子イチコロだよ。私でもきゅんとした」
「なんで彼氏作るんだよ。なんで今そんなこと言うんだよ」
「え? なんか言った?」
「なんでも。紬酔いすぎ。ほらもう寝よう」
「そうだね。その前にトイレ」

 私はトイレに行きベッドの上に寝た。港もトイレに行き、部屋の電気を消した。そういえば港お布団出してたっけ? まぁいつも自分でやってるから私が言わなくても大丈夫でしょう。

そう思っているとベッドが沈んだ。え?

「港? どうしたの?」
「今日はこうやって寝たい」
「でも……」
「ずっとこうしたかった。けど、紬が嫌がってるの分かってたから我慢してた」
「何肉食男子になってんの? 私に発情してどうすんの」
「そんなんじゃない。昔一度だけこうやって寝たの覚えてる?」
「……うん」
「その時、実はまだ女性とそういうことしたことなかったんだ。勝手に紬は僕をそういう男だって思っていたみたいだけど、初めて一緒に寝たのは紬だった。緊張しすぎて何もできなかった。でもちょっとだけ紬が寝ている間にこうやって手を触ったんだ。今もあの時と変わらないマシュマロのような手。それまで僕が触れてきた手と違った。でも、その時はすぐに手を離されて抱きつかれて、何もできなかった。朝起きて血相変えて出ていった紬見て、ああ終わったって思ったんだ。でも勇気出して笑顔で挨拶したら何事もなかったかのように接してきたから紬は無かったことにしたいんだって思った」

 私の知らない港がそこにいた。港は私のことが好きだとは言っていないが、なんだかそう言われているような気がした。

「手は出さないから今日はこのまま紬と一緒に寝たい。駄目?」

 港はもう大人だった。言葉遣いは優しいし、強引なところはないが、その目は色っぽくて、見とれてしまう。嫌と言えないなんて破廉恥な女だ。来週から高良と住むことを決めた矢先に私は何をしているのだろうか。今まで言い寄ってくる男もいなかったのに何故一度にこんな風に接してくる人が現れるのだろうか。

 長年友達だった港に抱きしめられながら私は眠りについた。
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