それは手から始まる恋でした
「ちょっとぉ波野さんどうしちゃったんですかぁ。もしかして好きな人に触れてもらえないとかですかぁ。その顔、図星ですねぇ。そうだなぁ、波野さんってお堅いって感じですぅ。隙なし!」
「隙なし?」
「確かにな。冗談で触れても怒られそうだし、まず触れることすらさせない気迫があるよな」
「そうなんですか?」
「まぁ四六時中見ている訳じゃないから分からないけど、仕事中は鉄壁女子って感じかな。愛想はいいけど固くて分厚い壁があるって感じかな」
「彼に触れられたら嬉しいなぁって顔すればいいんですよぉ。じっと目を見つめて彼の手に触れて、その手を触れられたいところに持っていけばもう男なんて自動的に触りたい放題で触ってきますからぁ。あっでも会社の人にそんなことしたら駄目ですよぉ。戸崎さんにも高良さんにもぉ」

 じっと見つめて手に触れて……か。

「下着は重要かもな。脱がせて残念ってなったらもう消化試合みたいなもんだからな」
「消化試合?」
「あぁ。とりあえずするけど感情なし」
「それは困ります」
「魅力か。自信からくるもじゃないかな。その為にも分析は重要だな。そこは仕事と同じで自分が持っている武器は何か相手が何を求めているのか把握する。もし追加したりブラッシュアップしたりできるならやっておくに越したことはない。相手が求めているものを満たせるなら自信をもってプレゼンに挑めるだろ。自信のあるプレゼンは聞いている方も惹きつけられる」

 言われてみればそうだが、私にとってそれが1番難しい。でもまずは高良の嗜好を確認しよう。

 私はトイレに行くために鞄からハンカチを取り出そうと鞄に手を突っ込むとスマホがブルブル震えだした。高良だ。

 ここに来る前に高良に3人で飲みに行くことを報告しておいた。トイレで見ようと思ってハンカチと一緒にスマホを持って行ったが、トイレに着いた時には止まっていた。よく見ると恐ろしいほどの着信履歴があった。2時間の間に何回電話してきているのだろうか。すると再び電話が鳴った。

「もしもし?」
「男と飲みは禁止と言ったはずだ」
「鮫島さんもいるから」
「だから何だ。戸崎さんに指一本触れられずに一人でちゃんと帰れるのか?」
「帰れます。戸崎さんも触れてこないので大丈夫です」
「飲みすぎるなよ。帰ったら連絡しろ」
「はい」
< 54 / 118 >

この作品をシェア

pagetop