それは手から始まる恋でした
 どれだけ私の手を人に触らせたくないのだろうか。手くらい触られたところで何も起こらない。キスされるなとかならわかるけど高良は過剰反応しすぎだ。
 まぁ、とりあえず今日は収穫もあったしあとは鮫島さんの為にも二人きりにしてあげるか。

「私そろそろ帰りますね」
「もう少しいいだろ?」
「戸崎さぁん、波野さん帰りたいって言ってるんだしぃ引き止めたら悪いですよぉ。私が最後までお付き合いしますぅ」

 鮫島さんは戸崎さんと腕を組み大きい胸を押し付けながらゆらゆらしている。こんなこと男がされたらイチコロだろう。私もあのくらい胸が大きければ……。自分が持っている武器。私の武器はこの手しかない。

「じゃあ俺も帰るか」
「何でですかぁ?」
「波野さん送ってくよ」
「大丈夫です。一人で帰ります」

 送られたら最後。高良との関係がバレてしまう。でもあのマンションは大きいからたまたま偶然彼氏が住んでいてとかで騙せるかな。

「波野さん送るなら私も送ってくださいよぉ」
「そうですね。私なんかより鮫島さんの方が介護必要そうです」

 鮫島さんは戸崎さんに見られないように私にウィンクしてきた。これは酔っぱらった芝居だったのか?

 凄い! 凄すぎるよ、鮫島さん。

 私は一人で家に帰った。そしてお風呂に入る前に高良に家に帰って来たことを連絡した。お風呂から上がると寝る準備をしたら連絡しろとメッセージが届いていた。
 少し面倒だ。無視しようかと思ったが後で何言われるか分からないのでベッドに入ってメッセージを送った。するとビデオ通話が鳴った。

「もしもし」
「飲み会は楽しかったか?」
「うん。鮫島さんが凄かった。色々勉強になった」
「勉強って何を?」
「いや、こっちの話」

 高良に触れてもらうためにどうすればいいか勉強になったなんて言えない。

「俺に秘密はなしだ。言え」
「言いません。仕事は?」
「順調だ。今は休憩中。それより今は一人だろうな?」
「一人だよ。家だし。私を信用してないの?」
「彼氏と同棲始めるときに他の男と添い寝する彼女のどこを信用しろと?」
「それは……すみません。でもあれは本当にそういうのじゃないから」
「過去のことはもういい。聞きたくもない。今日はこのまま通話状態にして寝ろ」
「なんでそんなこと」
「男を連れ込んでいないかの確認」
「連れ込んでません。そんなに心配なら一人にしなければいいでしょう。切るね。おやすみ」
「おい、ま」

 私は一方的に電話を切った。本当に可愛くないと自分で思うが信用してくれていない高良にも腹が立つ。
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