それは手から始まる恋でした
 週末も何となく一人でいたがあの日以降高良から連絡が来ることはなかった。もちろん会社に行くと山のように仕事のメールが届いていたがそれも全て業務メールで私の心配などしていなかった。

 そしてまた週末が始まろうとしている。

 何故プライベートの連絡が一切ないのか。心配じゃないのか? 寂しくないのか? 話をしたいと思わないのか? 

 いや、そもそも高良は私の手に触れることが好きなのだ。触れられないならどうでもいいのか?

 一方的に電話を切った手前自分からは連絡しづらい。恋愛経験ゼロの私にはどうしていいか分からない。ここは可愛く連絡を? 駄目だ。私一人ではいい案が浮かばない。

「もしもし? 久しぶりもう同棲終わり?」
「一言目がそれって……」

 私は唯一事情を知っている港に電話を掛けた。

「う~ん。何となくそうかなって。飲みに行く?」
「ううん。飲みには行けないかな」
「彼氏とご飯?」
「今出張中」
「じゃあ僕の家にする?」
「それはもっとダメ。彼が男性と2人で飲むのはダメだって。家に行くのはもっとまずいと思う」

 いや、本当は港に今すぐあって愚痴を聞いてほしい。でも今会ってしまうと港に流されそうだ。

「ふ~ん。言う事ちゃんと聞いてるんだ。つまらない女」
「つまらない?」
「だって出張中に自分は女連れ込んで遊んでても彼女は大人しく家で帰りを待つ忠犬ハチ公なんでしょ。つまらないよ」
「出張中に女? 忠犬ハチ公?」
「もっと聞きたければウチくる?」
「だから行かないって。でも話聞きたい」
「じゃあ明日パンケーキでも食べながら話しよっか」

 飲みじゃないし昼間に外だったら怒らないよねってそもそも高良はまだ海外だし私がどこで何しようともうどうでもいいんだ。

 翌日私は港に言われた人気のパンケーキ屋に行った。

「これめちゃくちゃ美味しいね」
「でしょ。紬に一度食べさせてやりたかったんだ」
「港甘いもの食べないのにこれは食べるんだ」
「僕のは食事用だからパンケーキもそんなに甘くないよ」

 可愛い顔して港は甘いものよりお酒だ。女関係といい、キスといい港は見た目とは全然違う。

「それで出張中に女を連れ込むってどういうこと?」
「出張中は会食とかもあるけど毎日じゃないし海外の部屋って日本みたいに1名いくらじゃなくて1室いくらだから口裏合わせるか他の人にバレないようにすれば会社に黙って女連れ込み放題」
「そんな……」
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