それは手から始まる恋でした
「彼から連絡がないのも、あっちで密会してて忙しいのかもね。やっぱりそんな男の家早く出たら?」
「それは……もうちょっと頑張る。ねぇ、彼の言う事を聞いていたらつまらないの? 飽きちゃうの?」
「人によるけど遊び人ならそうじゃない? 自分の思いどおりになる女なんてつまらないよ。女もそうでしょ。自分の言う通りになる男なんて男として見てないじゃん。紬みたいに」
「私? 私はそんな人そもそもいないから」
「僕」
「港はそもそも男とか女とかの関係じゃないじゃん。私のオアシスだし」
「ほらね。でも僕も紬とは別れたり喧嘩したりしたくないからそれでいいけど。彼の言いつけ守らずに僕とはいつでも会って飲みにも行って僕の家に泊まれば彼の気も引けるんじゃない?」
「それはそうかもしれないけど……今はやめとく。まずは信用してもらわないと」
「ふ~ん。で、いつ戻ってくるの?」
「次の土曜日。なんか顔すら忘れそう」
「存在も忘れればいいのに」
「港」
「ごめんごめん。なんか紬が恋してるのがつまらなくて」
「一生に一度しかできない彼氏かもしれないんだよ。それもあとどれくらい続くのか」
「付き合って早々別れを考えるとは難儀な恋だね」

 本当にその通りだ。世の中の恋人たちは付き合ってからその先にあるイベントを考えるのだろう。クリスマス、お正月、お花見、お祭りそして結婚。
 
それなのに私の初めての彼氏はどう考えても結婚という形のエンディングが思い浮かばない。格差が大きすぎる。私に社長夫人なんて務められるわけないし、そもそも6つも年上の私を嫁にするなんて高良の家族は認めないだろう。

 私は気晴らしに港とショッピングを楽しみ家に帰った。一応、港に私に似合う大人っぽい服を選んでもらった。高良は確かセクシー系が好きなはずだ。

 セクシー=大人な服って発想がそもそも間違っているかもしれないが、これまでと違った私を見せることができればそれでいい。来週の土曜日はこれを着て待とう。
< 57 / 118 >

この作品をシェア

pagetop