それは手から始まる恋でした
 そして1週間が終わり私は何事もなかったかのように元気になり、高良も一安心していた。忙しい合間を縫って私の足や腰やお腹を撫でて痛みを和らげようと必死だった高良を私はますます好きになっていた。

 高良の毎日は忙しい。年末を控えたこの季節は特に忙殺される。欧米ではクリスマス前に様々な契約を済ませることが多い。クリスマス休暇に入ると年始まで稼働しない会社も多い。

 出張や私の体調不良でクリスマスをどうするかなんて相談すらできずにいたら早くもクリスマスが迫っていた。プレゼントも用意していなければレストランなんてもちろん予約していない。それに私が買えるプレゼントなんてたかが知れている。なんで今年に限って週末なんだ!

 プレゼントは私! なんて言って自分にリボンをつけてみようか。
 自分で考えておいて身の毛がよだった。私が買える高良が喜ぶプレゼントなんてこの世にあるのだろうか。

 土曜日のクリスマスイブ、街中には幸せそうなカップルが昼間からデートしている。港おすすめのケーキ屋で予約のケーキを受け取った。家では高級チョコがいつも高良の手の届くところにあるので甘いものは食べるようだ。一応チョコケーキにしたが、これは私が食べたいのだから買っているんだと自分に言い聞かせる。

 昨日高良は帰ってこなかった。会社のお偉いさんたちと会食があり、そのまま実家に帰ったそうだ。今日は家に帰ってくると言っていたがお昼になっても帰ってこなかった。

 考えに考えて買ったプレゼントは家に置いている。あとはクリスマスディナーを作るだけ。初めての彼氏、初めてのクリスマス、何が正解か全くわからない。料理が得意なわけではないので難しそうなものは出来合いのものを購入し、私が作れるものを作って待っていたが高良は夜になっても帰ってこない。

 クリスマスイブに高良と会いたい女性は沢山いるだろう。一緒に住んでいるとはいえ、私はその中の一人でしかない。外でデートをしたことがない。ただ家にいてイチャイチャしたりテレビを見たりするだけ。これって恋人なのだろうか。恋人ごっこにすらなっていない気がしてきた。

 高良と一緒に居られること自体が奇跡なのだからこんなことを考えていちゃ駄目なのに一人になるとぐるぐると負の感情が頭をよぎる。

「ごめん遅くなって」

 高良が帰って来たのは夜の9時だった。用意していた料理はとっくに冷めきっている。
< 64 / 118 >

この作品をシェア

pagetop