それは手から始まる恋でした
「ううん。大丈夫。ご飯は?」
「食べる。てか、ごめん」

 高良はテーブルの上の料理を見て再び謝った。私は気丈に振る舞うしかなかった。

「大丈夫だよ。出来合いのものばかりだし、クリスマスだから雰囲気だけでもって思ってさ。それにこの映画見てたらあっという間に時間過ぎてた。これ面白いよ」

 私は暗い気持ちをかき消すようにクリスマスのギャグアニメ映画を見ていた。カップルなんて出てこない家族や友情の物語。それでも高良が他の女性といるのではないかと考えるとほとんど映画の内容は入ってこなかった。

「昼に帰ろうとしたら穂乃果が来て帰れなくなって、夕方には穂乃果は帰ったんだけど親父に呼び止められて、でもご飯は食べてない。紬と今日は過ごしたかったから」
「そっか。ありがとう。ご飯食べよう」
「うん」

 ご飯を食べながら話をしているが少しだけ私達の会話には距離ができているような気がした。何かを探りあうような、言いたいことがあるのに言えない空気。高良は私と過ごしたいと言ってくれたじゃないか。でもそれは口が上手いだけかもしれない。それで私はいいのだろうか。彼を信じていいのだろうか。

「あのさ」
「あの」

 同じタイミングだった。私は高良に話しを続けてもらうように言った。

「その、最近、仕事忙しくて、紬と会話も少なくなってて、仕事でも結構怒鳴ってたし、嫌な思いさせているのは分かってたけど、俺、親父に認めてもらいたくて必死で。成績良くても人がついてこないと意味がないって今日親父にも言われて、それで口論して、帰るに帰れなくて。でも、親父が言う事が少しわかって。それで、ごめん。俺何言ってんだろう」

 高良の下がった眉毛を初めて見た。こんなにも頼りない高良を見たことがない。父親に認められたいと必死な姿をこのプライドの塊のような高良が私に見せてくれるなんて愛おしい。愛おしすぎる。私は高良のもとに行き、後ろから高良を抱きしめた。

「いいよ。なんでも言って。そういう仁も私は見ていきたい。そりゃ、あんなに怒鳴られたりバカにされたら落ち込むけど、私のミスだし仕方ないかなって思ってる。もう少し優しく言ってくれたら最高の彼氏は最高の上司にもなるのになって思うことはあるよ」
「紬……」

 高良は私の腕をぎゅっと握った。
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